誓約書は公正証書にできる?強制執行の条件・作り方・費用|2025年10月改定後の手数料

誓約書は公正証書にできる?
誓約書に書いた内容は、公正証書にできます。ただし、書かせた誓約書を公証役場に持ち込んで「変換」してもらう手続きがあるわけではありません。公正証書は、公証人が当事者双方から合意内容を確認したうえで、新たに公文書として作成し直すものです。誓約書は、その案文のたたき台になります。
ここで前提になるのが、誓約した本人が公証役場での手続きに協力することです。誓約書は本人が一方的に差し入れる文書ですが、公正証書の作成には当事者双方(または代理人)の関与が必要で、相手が拒否すれば作れません。応じない場合の選択肢は後半で説明します。
公正証書にした後も、もとの誓約書が無駄になるわけではありません。本人が事実を認めて署名した記録として、慰謝料請求や訴訟の証拠価値を持ち続けます。原本は捨てずに保管してください。
スポンサーリンク
公正証書にすると何が変わる?
最大の変化は、強制執行認諾文言を付けておけば、裁判をせずに給与・預金の差押え(強制執行)ができることです。私文書の誓約書のままだと、違約金や支払いの約束を破られたとき、訴訟を起こして判決を得てからでないと強制執行に進めません。公正証書ならこの裁判のステップを丸ごと省略できます。
| 私文書の誓約書 | 公正証書 | |
|---|---|---|
| 作成方法 | 当事者間で自由に作成できる | 公証役場で公証人が作成する |
| 相手の協力 | 本人が署名すれば成立 | 双方の合意と関与(出頭または代理人)が必要 |
| 証明力 | 署名・押印があれば証拠になるが、「書かされた」と争われる余地がある | 公証人が本人確認・意思確認をして作る公文書のため争われにくい |
| 不払い時の強制執行 | 訴訟で判決を得てから | 強制執行認諾文言付きなら裁判なしで差押え可能 |
| 原本の保管 | 自分で保管(紛失・改ざんのリスク) | 公証役場が原本を保管 |
| 費用 | 無料 | 目的の価額に応じた公証人手数料(後述) |
証明力の面でも差が出ます。公証人が本人確認と意思確認をしたうえで作成するため、後から「無理やり書かされた」「偽造だ」と主張される余地が小さくなります。さらに、いつでも差押えに進めるという事実そのものが相手への心理的な抑止力になり、約束が守られやすくなる効果も見逃せません。
強制執行できるのは「金銭の支払い」だけ|接触禁止などはそのまま対象にならない
「公正証書にすれば誓約を強制できる」というのはよくある誤解です。裁判なしで強制執行できる公正証書(執行証書)は、「金銭の一定の額の支払い」などを目的とする請求に限られます(民事執行法22条5号)。違約金・慰謝料・分割払いのように金額が特定された支払いの約束が対象で、物の引渡しや建物の明渡しすら対象外です。
つまり、接触禁止・秘密保持・再発防止のような「○○しない」という行為義務そのものは、公正証書にしても強制執行の対象になりません。「二度と会わない」という誓約を公正証書にしたからといって、接触をやめさせる行為を公的に強制する仕組みはないのです。
実務での対処はシンプルで、行為義務には「違反した場合は違約金として金○○円を支払う」という条項をセットし、金銭債務に変換しておきます。違約金は金額が特定された金銭の支払いなので執行証書の対象になり、違反があれば差押えで回収できます。条項の形は次のとおりです。
2つめの条項が「強制執行認諾文言」です。「直ちに強制執行に服する」とは、裁判で判決を取らなくても、この公正証書だけで差押えを受けることを本人が承諾するという意味です。この一文がないと、公正証書にしても強制執行はできません。公証人との打ち合わせで「強制執行認諾文言を入れてほしい」と必ず伝えてください。
違約金は高くするほど安心に見えますが、実害とかけ離れた高額の設定は公序良俗(民法90条)に反して減額・無効と判断されるおそれがあります。確実に請求できる水準に収めるほうが実利があります。シーン別の相場感は記事後半で紹介する各記事を参照してください。
公正証書の作り方|流れと必要書類
公正証書の作成は予約制です。内容の調整はメール・電話で事前にできるため、公証役場へ出向くのは原則として作成当日の1回で済みます。標準的な流れは次のとおりです。
- 当事者間で合意内容を固める(書かせた誓約書や合意メモが案文のたたき台になる)
- 公証役場に連絡し、案文と資料を送って事前相談する(メール・電話で調整できる)
- 公証人が証書の案を作成。内容を確認し、作成日を予約する
- 当日、当事者双方が本人確認書類を持って公証役場に出頭し、公証人による内容確認のうえ署名する
- 手数料を支払い、正本・謄本を受け取る
必要書類
- 本人確認資料(個人の場合):印鑑登録証明書(発行3か月以内)と実印、運転免許証と認印、マイナンバーカードと認印のいずれか。当事者双方がそれぞれ用意する。
- 法人の場合:代表者事項証明書(または登記事項証明書)と法人の印鑑証明書(いずれも発行3か月以内)、代表者印(実印)を用意する。
- 合意内容が分かる資料:誓約書の原本や案文、違約金・支払額・支払方法が分かるメモ。振込先口座を決めている場合はその情報も。
本人が出頭できない場合は代理人でも作成できますが、合意内容を記載した委任状(本人の実印を押印。白紙委任は不可)と本人の印鑑登録証明書が必要です。本人の意思が争点になりやすい誓約内容なら、できるだけ本人に出頭してもらうほうが安全です。必要書類の詳細は日本公証人連合会のQ&Aで確認できます。
公証役場は全国どこの役場でも利用できます(住所地による管轄の縛りはありません。公証人に出張してもらう場合のみ、その公証人の所属する法務局の管轄内に限られます)。また、実際に差し押さえる段階では、執行文の付与を受け、公正証書の謄本が相手に送達されていることが必要になります。作成時に送達の手続きまで済ませておくとスムーズです(送達の手数料は1件1,600円。郵便による送達の場合は郵便の実費が別にかかります)。
費用はいくら?(2025年10月改定後の公証人手数料)
公証人手数料は、約束する金額(目的の価額=違約金や支払総額)に応じて決まります。注意したいのは、2025年10月1日施行の公証人手数料令の改正で、手数料額が約20年ぶりに変わったことです(日本公証人連合会の告知)。改定前の金額を載せたままの解説がまだ多く残っています。改定後の手数料は次のとおりです。
| 目的の価額 | 手数料 |
|---|---|
| 50万円以下 | 3,000円 |
| 50万円超〜100万円以下 | 5,000円 |
| 100万円超〜200万円以下 | 7,000円 |
| 200万円超〜500万円以下 | 1万3,000円 |
| 500万円超〜1,000万円以下 | 2万円 |
| 1,000万円超〜3,000万円以下 | 2万6,000円 |
| 3,000万円超〜5,000万円以下 | 3万3,000円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 4万9,000円 |
たとえば違約金300万円の誓約内容なら1万3,000円(改定前は1万1,000円)、違約金と慰謝料をあわせて800万円なら2万円(改定前は1万7,000円)です。200万円を超える区分は値上げされた一方、「50万円以下3,000円」の区分が新設され、少額の約束はむしろ安く作れるようになりました。
このほかに、正本・謄本の交付手数料(紙の場合は用紙1枚につき300円、電子データで受け取る場合は1件につき2,500円)がかかります。養育費のように毎月払い続ける約束は、全期間の支払総額(10年分が上限。子の養育費の分担は5年分が上限)を目的の価額として計算します。最新の手数料は日本公証人連合会の手数料ページで確認できます。
スポンサーリンク
相手が公正証書化に応じないときは
公正証書は当事者双方の合意と協力がなければ作れません。相手が公証役場での手続きを拒めば、こちらが一方的に公正証書化する方法はないのが現実です。その場合の選択肢は3つあります。
- 誓約書を証拠として保全する:私文書でも本人の署名・押印があれば証拠になる。違約金や支払いを請求する訴訟で、約束の存在を裏づける根拠として機能する。
- 誓約書に協力条項を入れておく:これから書かせるなら、「公正証書の作成に協力する」という一文を入れておく。それでも拒まれたときに、誓約違反として交渉材料にできる。
- 調停・訴訟に進む:支払いが滞ったら、支払督促・少額訴訟・民事訴訟で判決などの債務名義を取得すれば、公正証書がなくても強制執行できる。
公正証書にできない場合ほど、もとになる誓約書の出来が重要になります。証拠として通用する誓約書の書き方は、次の記事にまとめています。

誓約書の書き方|法的有効性・必須項目・シーン別例文集とNG条項チェック
誓約書の書き方を、必須項目・法的有効性(公序良俗/強行法規)・無効になる条項の典型例・シーン別の例文集つきで解説。入社誓約書/秘密保持/支払い/個人情報など、業務シーン別の例文をコピペで使えるテンプレートと併せてまとめました。
記事を読むシーン別|公正証書化を検討すべき誓約書
どんな誓約書でも公正証書にする価値があるわけではありません。検討に値するのは、金額が大きい・支払いが長期にわたる・相手の資力や誠意に不安がある場合です。シーン別の条項の作り方や違約金の決め方は、それぞれの記事で詳しく扱っています。

不倫誓約書の書き方と効力|必須条項・違約金の決め方・例文テンプレート
配偶者の不倫・浮気の再発防止に書かせる不倫誓約書の作り方。必須4条項(不貞の事実の自認・接触禁止・違約金・誠実義務)、「夫婦間の契約は取り消せる」の心配が不要になった理由、違約金の相場、公正証書化まで、そのまま使える例文つきでまとめました。
記事を読む
支払い誓約書の書き方(取引先・売掛金向け)|分割払い・遅延損害金の文例
取引先からの代金支払いが遅延した場合に提出してもらう支払い誓約書の書き方を、業務取引(B2B)に絞って解説。分割払いの設定・遅延損害金・連帯保証人・期限の利益喪失条項まで、コピペで使える例文と実務ポイントをまとめました。個人間の借金は弁護士相談を推奨します。
記事を読む誓約書のたたき台はTEMPLEXで作成
公正証書を作る場合も、出発点は誓約書の形で合意内容を固めることです。TEMPLEXの誓約書テンプレートなら、宛先・誓約事項・差出人を入力するだけで登録不要・無料でPDFをダウンロードできます。この記事の条項例を誓約事項に貼り付けて金額・氏名を書き換えれば、公証役場への事前相談にそのまま使える案文になります。
スポンサーリンク
コラム著者・編集者
TEMPLEX編集チーム
TEMPLEX編集チームは、ビジネス文書の作成・管理に精通した実務経験者と技術ライターで構成されています。送付状・請求書・見積書をはじめとする各種ビジネス書類のフォーマットや書き方のノウハウを、わかりやすく丁寧にお届けします。「Office不要で誰でもすぐ使える」をコンセプトに、忙しいビジネスパーソンの書類作成をサポートします。








