入社誓約書の書き方|必須項目・例文10種・無効になる条項チェック

入社誓約書とは|雇用契約書との違い
入社誓約書は、新たに入社する従業員が「就業規則を守る」「秘密を漏らさない」「反社会的勢力と関係を持たない」といった事項を会社に対して誓約する文書です。法律上の作成義務はありませんが、入社時に署名をもらうことで、ルール遵守の意識付けと、万一のトラブル時に「知らなかった」という主張を防ぐ証拠として機能します。
混同されやすい雇用契約書との最大の違いは、署名者が「会社と従業員の双方」か「従業員のみ」かという点です。雇用契約書は賃金・勤務地・労働時間などの労働条件を双方が合意する「契約」であるのに対し、入社誓約書は従業員が一方的に遵守事項を約束する「誓約」です。実務上は両方をセットで提出してもらうのが一般的ですが、法的に必須なのは労働条件の明示(労働基準法第15条)のほうであり、入社誓約書は任意です。
| 入社誓約書 | 雇用契約書 | |
|---|---|---|
| 性質 | 従業員による一方的な誓約 | 双方の合意による契約 |
| 署名者 | 従業員のみ | 会社と従業員の双方 |
| 主な記載内容 | 就業規則遵守・秘密保持・反社排除など | 賃金・勤務地・労働時間・契約期間など |
| 法的義務 | なし(任意) | あり(労基法第15条) |
| 拘束力 | 合理的な範囲で有効 | 労働条件として拘束力あり |
入社誓約書は「内定承諾書」とも異なります。内定承諾書は内定を受諾する意思表示であり、入社誓約書は入社後の行動規範を約束するものです。実務上は入社日当日に入社誓約書を提出させる会社が大半です。
入社誓約書に盛り込む典型項目(チェックリスト)
以下は入社誓約書に記載する項目の代表例です。すべてを網羅する必要はなく、自社の就業規則・業種・職種に合わせて取捨選択するのが基本です。
| 項目 | 内容 | 重要度 |
|---|---|---|
| 就業規則遵守 | 就業規則・社内規程・業務命令に従うこと | 必須 |
| 秘密保持 | 営業秘密・顧客情報・技術情報を在職中・退職後も漏洩しないこと | 必須 |
| 反社排除 | 反社会的勢力と関係を持たないこと | 必須 |
| 提出書類の真実性 | 履歴書・職務経歴書等の内容が真実であること | 必須 |
| 個人情報保護 | 業務上の個人情報を目的外に使用しないこと | 推奨 |
| 兼業禁止・届出 | 無断で他社の業務に従事しないこと | 推奨 |
| 競業避止 | 退職後一定期間、競合他社への就職を制限すること | 任意(要注意) |
| 知的財産権帰属 | 職務上の発明・著作物の権利が会社に帰属すること | 業種による |
| 損害賠償 | 誓約違反時に損害賠償責任を負うこと | 任意(要注意) |
| SNS利用制限 | 業務情報のSNS発信を制限すること | 推奨 |

「競業避止」と「損害賠償」は無効リスクが高い条項です。詳しくは後述の「無効化リスクの高い NG 条項」で解説します。
必須誓約事項の例文(コピペ可)
ここからは、コピーしてそのまま使える入社誓約書の共通フォーマットを掲載します。誓約事項は7項目を標準構成としていますが、業種別の追加項目は次のセクションで個別に紹介します。
高卒採用など18歳未満の未成年者から入社誓約書を取得する場合、未成年者が単独で行った法律行為は親権者の同意がなければ取り消せます(民法5条)。誓約書のフォーマットに「親権者(法定代理人)」の署名欄を設け、連署でもらうのが安全です。
提示・回収のベストタイミング
入社日当日にその場で読ませてすぐ署名させる運用は、心理的な圧迫感を与えるうえ、「内容を十分に確認できなかった」と後日トラブルになりかねません。内定通知や入社案内の段階で事前にPDFを送付し、入社日に署名済みの原本を持参してもらう運用が推奨されます。事前に確認する時間があれば、疑問点を入社前に解消でき、拒否やトラブルのリスクが大幅に下がります。
各項目のポイント解説
第1号(就業規則遵守) ― 入社誓約書の中核です。就業規則を「読んだ」「内容を理解した」旨を含めると、後日「知らなかった」の主張を封じやすくなります。就業規則の写しを入社日に交付し、受領確認を別途もらう運用がベストです。
第2号(秘密保持) ― 「在職中および退職後も」と明記するのがポイントです。対象情報を括弧書きで例示しておくと、何が秘密情報に該当するかの争いを減らせます。特に重要な情報がある場合は別途秘密保持誓約書を取り交わすのが安全です。
第3号(兼業禁止) ― 2018年の副業・兼業の促進に関するガイドライン改定以降、全面禁止ではなく「届出制」にする企業が増えています。自社の就業規則が副業届出制であれば、「貴社の承諾なく」の部分を「貴社への届出なく」に変更してください。
第4号(提出書類の真実性) ― 経歴詐称が発覚した場合の懲戒解雇の根拠になる項目です。中途採用では特に重要で、職務経歴書の内容も対象に含めておきましょう。
第5号(反社排除) ― 各都道府県の暴力団排除条例に対応する条項です。取引先から反社チェックを求められる場面でも、従業員全員が誓約書を提出済みであれば対応がスムーズになります。
第7号(違反時の責任) ― 「貴社が被った一切の損害」のような上限のない表現は無効リスクがあるため、「就業規則に基づく懲戒処分および損害の賠償責任」という限定的な書き方が推奨されます。
業種別の追加誓約事項
共通フォーマットの7項目に加えて、業種固有のリスクに対応する追加条項を設けると実効性が高まります。以下に代表的な3業種のテンプレートを掲載します。
IT・エンジニア向け追加誓約事項
ソフトウェア開発やシステム運用に携わる従業員は、ソースコードや設計書など知的財産に直接アクセスします。職務発明の権利帰属とIT資産の適正利用を明確にしておくことが重要です。
特許法第35条(職務発明)により、従業員の職務発明に対しては「相当の利益」を支払う必要があります。誓約書で権利帰属を定めるだけでなく、職務発明規程を別途整備し、対価の算定基準を明示しておきましょう。
医療事務・介護向け追加誓約事項
医療・介護の現場では、患者・利用者の診療記録や要配慮個人情報を日常的に扱います。個人情報保護法に加え、医療法・介護保険法上の守秘義務も踏まえた誓約事項が求められます。
販売・接客向け追加誓約事項
小売・飲食などの接客業では、顧客情報の管理に加え、金銭・在庫の取り扱いに関する規律が重要になります。
上記は代表的な追加項目ですが、建設業なら安全衛生、金融業ならインサイダー取引防止など、業界ごとに固有のリスクがあります。自社のコンプライアンス部門や顧問弁護士と連携して項目を決めてください。
無効化リスクの高い NG 条項
入社誓約書に何でも書けるわけではありません。従業員に過度な不利益を課す条項は、裁判で無効と判断されるリスクがあります。以下のチェックリストで自社の誓約書を点検してください。
競業避止条項の有効性を左右する4要素
退職後の競業避止は、誓約書に書いたからといって当然に有効になるわけではありません。判例(フォセコ・ジャパン・リミテッド事件・奈良地裁昭和45年10月23日など)では、次の4つの要素を総合的に考慮して有効性を判断するとされています。
- 制限期間 ― 1〜2年が一般的。5年を超えると無効リスクが高い
- 制限地域 ― 全国一律よりも、事業展開エリアに限定するほうが有効性が認められやすい
- 制限対象の業務範囲 ― 「同業他社すべて」よりも「在職中に担当した業務に直接関連する業種」に絞る
- 代償措置 ― 退職金の上乗せ・競業避止手当など、制限に見合う経済的対価があるか
これらの要素がすべて揃っていても確実に有効とは限りませんが、少なくとも期間無限定・業務無限定・代償措置ゼロの3点セットは、裁判で争えばほぼ無効になります。入社誓約書に競業避止を入れる場合は、自社の顧問弁護士に必ず確認してください。
雇用契約書・就業規則との優先関係
入社誓約書の内容と雇用契約書・就業規則の記載に矛盾がある場合、原則として雇用契約書や就業規則のほうが優先されます。労働基準法13条は、法令や就業規則に定める基準に達しない労働条件を無効とし、無効となった部分は法令・就業規則の基準で補充すると定めています。入社誓約書で就業規則よりも労働者に不利な条件を課しても、その部分は効力を持ちません。フォーマット作成時には、雇用契約書・就業規則と矛盾がないか必ず突き合わせてください。
「一切の損害賠償」条項はなぜ危険か
「上記に違反した場合、貴社が被った一切の損害を賠償します」という定型文をよく見かけますが、これだけでは損害額の立証も算定基準も曖昧なため、実際の訴訟で全額認容されることはまれです。むしろ従業員の萎縮効果が問題視されるケースもあります。実効性を持たせたいなら、「就業規則第○条に基づく」「故意または重過失に限る」など範囲を限定したうえで、就業規則側で具体的な算定基準を定めるほうが合理的です。
中途・派遣・アルバイトでの違い
入社誓約書は新卒入社だけのものではありません。雇用形態によって誓約事項の範囲やボリュームを調整するのが実務的です。
中途入社
新卒と基本構成は同じですが、前職の秘密情報を持ち込まない旨の誓約(クリーンハンド条項)を追加するのが一般的です。前職との間に競業避止義務が残っている場合は、入社後のトラブルを防ぐために事前確認を行い、問題がない旨を誓約させます。
また、職務経歴書の記載内容について真実であることの誓約は、中途採用では特に重点を置くべき項目です。経歴詐称が発覚した場合の懲戒根拠として機能します。
派遣社員
派遣社員と雇用関係にあるのは派遣元会社であるため、入社誓約書を取得するのは派遣元です。派遣先企業が直接誓約書を求めることは通常ありませんが、秘密保持に関しては派遣先が「秘密保持に関する覚書」を派遣元と締結し、その中で派遣社員個人にも秘密保持義務を課す形が多く見られます。
アルバイト・パート
アルバイト・パートに対しても入社誓約書を取得する企業は増えていますが、項目は必要最低限に絞るのが望ましいです。就業規則遵守・秘密保持・反社排除の3項目で十分なケースが多く、競業避止や知的財産権帰属まで求めると過剰と見なされるリスクがあります。
| 雇用形態 | 誓約書の取得主体 | 推奨項目数 | 追加すべきポイント |
|---|---|---|---|
| 新卒 | 自社 | 7項目(共通フォーマット) | 特になし(標準構成で十分) |
| 中途 | 自社 | 7〜8項目 | クリーンハンド条項(前職情報の不持込み) |
| 派遣 | 派遣元 | 派遣元の規程による | 派遣先との秘密保持覚書を別途締結 |
| アルバイト・パート | 自社 | 3〜5項目 | 就業規則遵守・秘密保持・反社排除に絞る |
提出を拒否された場合の対応
入社予定者から「誓約書にサインしたくない」と言われた場合、どう対応すべきでしょうか。結論から言えば、誓約書の提出を法的に強制することはできません。ただし、実務上の対応にはいくつかの選択肢があります。
拒否理由を確認する
まず拒否の理由を確認しましょう。多くの場合、「内容がよく分からない」「競業避止の範囲が広すぎて不安」「退職後の制約が厳しい」といった具体的な懸念があります。条項の趣旨を説明したり、不合理な条項を修正することで解決するケースがほとんどです。
拒否を理由に内定取消はできるか
入社誓約書の提出拒否だけを理由に内定を取り消すことは、原則として認められないと考えるべきです。内定取消は解雇に準ずる行為であり、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が求められます(労働契約法第16条の類推適用)。誓約書の未提出だけでは、この基準を満たすのは困難です。
実務上の落としどころ
- 懸念のある条項(競業避止・包括的な損害賠償など)を削除または修正して再提示する
- 入社誓約書とは別に、秘密保持だけに特化した書面を求める
- 就業規則の受領確認書(「就業規則を受領し、内容を確認しました」という書面)で代替する
- それでも拒否される場合は、やり取りの経緯を記録に残しておく
入社予定者が「誓約書を拒否できるか」と検索するケースも多くあります。結論としては拒否自体は可能ですが、就業規則の遵守義務は雇用契約の成立によって発生するため、誓約書に署名しなくても規則に従う義務はあります。誓約書はその確認を書面化したものにすぎません。
電子化と保管
入社誓約書の電子化は法的に問題ありません。電子署名法に基づく電子署名を付与すれば、書面と同等の証拠力が認められます。DocuSign、クラウドサイン、GMOサインなどの電子契約サービスを使えば、入社手続きを完全にオンラインで完結できます。
電子化のメリット
- リモート入社・遠方の中途採用者にも即日対応できる
- 紙の保管スペースが不要になる
- 検索・参照が容易になる(退職時の引き継ぎ確認など)
- 提出漏れを自動でリマインドできる
保管期間
入社誓約書には法定の保管期間はありませんが、在職中は当然として、退職後も少なくとも3〜5年は保管するのが一般的です。秘密保持や競業避止の誓約は退職後も効力が続くため、その期間中は破棄しないでください。労働関係書類の保存期間(5年、当面は3年の経過措置あり)に合わせて保管するのが安全です。
紙で受領した誓約書をスキャンして電子保管する場合は、電子帳簿保存法のスキャナ保存要件(タイムスタンプ付与・解像度200dpi以上など)を満たす必要があります。最初から電子署名で取得すれば、この要件を気にせず済みます。
身元保証書とのセット運用
入社誓約書と合わせて「身元保証書」の提出を求める企業も多く存在します。身元保証書は、従業員が会社に損害を与えた場合に身元保証人が連帯して賠償責任を負う旨を定める文書です。
身元保証法の制限
身元保証に関する法律(身元保証法)により、以下の制限があります。特に2020年の民法改正で極度額(上限額)の定めがない身元保証は無効になりました。これは非常に重要な変更点で、古い書式をそのまま使い続けている場合は必ず修正してください。
- 保証期間は最長5年(定めがなければ3年)
- 自動更新の定めは無効
- 極度額(賠償の上限額)を明記する必要がある(民法改正後)
- 会社は従業員に問題があった場合、身元保証人に通知する義務がある
実務上のセット運用
入社手続きでは、入社誓約書・雇用契約書・身元保証書・マイナンバー届出書・給与振込口座届などを「入社手続き書類一式」としてまとめて交付・回収するのが効率的です。チェックリストを用意し、提出漏れがないよう管理しましょう。身元保証書は提出を拒否されることも増えており、近年は廃止する企業も出てきています。必要性を改めて検討するのもよいでしょう。
入社誓約書テンプレートで即PDF出力
入社誓約書の条項設計に時間をかけたら、フォーマットの体裁整えはテンプレートに任せるのが効率的です。TEMPLEX なら登録不要・無料で、フォーム入力するだけで入社誓約書をPDF出力できます。会社名・誓約事項・日付を入力すれば、そのまま印刷して入社手続きに使えるフォーマットが完成します。
コラム著者・編集者
TEMPLEX編集チーム
TEMPLEX編集チームは、ビジネス文書の作成・管理に精通した実務経験者と技術ライターで構成されています。送付状・請求書・見積書をはじめとする各種ビジネス書類のフォーマットや書き方のノウハウを、わかりやすく丁寧にお届けします。「Office不要で誰でもすぐ使える」をコンセプトに、忙しいビジネスパーソンの書類作成をサポートします。








