会社の誓約書を書きたくない|拒否できる?断り方と現実的なリスク

会社の誓約書は拒否できる?まず結論
誓約書への署名を法的に強制されることはありません。誓約書は本人が同意して初めて意味を持つ書面であり、会社が「提出は義務だ」と説明したとしても、署名する義務が法律上当然に発生するわけではありません。拒否している従業員に、会社が強制的に署名させる法的な手段もありません。

ただし「拒否すればノーリスク」でもありません。入社時・在職中・退職時のどの場面かによって、拒否した場合に起きることがまったく違います。自分の場面のセクションを確認してください。
もう一つ大事なのは、「全部署名する」か「全部拒否する」かの二択ではないことです。実際に問題になる条項は一部だけのことが多く、問題条項だけ修正を求める・その条項を除いて署名する、という間の選択肢が最も現実的です。進め方は後半で説明します。
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入社時|拒否の影響が最も出やすい場面
入社誓約書は、提出が採用手続の一部として扱われることが多く、拒否の影響が最も出やすい場面です。多くの会社で雇用契約書や身元保証書とセットの入社書類に組み込まれており、未提出のままだと入社手続が先に進みません。
法的には、いったん内定を出した後の取消しには「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要です(最高裁判例・大日本印刷事件)。誓約書を出さないという一点だけで直ちに適法な内定取消になるとは限りません。とはいえ、理由を示さず提出を拒み続ければ「入社する意思がない」と受け取られ、内定取消や入社前の関係悪化に発展する現実的なリスクがあります。
現実的な対応はこうです。就業規則の遵守・秘密保持・反社会的勢力との関係排除といった一般的な項目は、署名してもしなくても従業員として当然に求められるものなので、署名による実害はほぼありません。確認すべきは競業避止(退職後の転職制限)や包括的な損害賠償のような、将来の自分を縛る条項です。気になる条項だけ質問・確認し、納得してから署名してください。入社誓約書にどんな項目が並ぶか、どの条項が無効になりやすいかは次の記事で確認できます。

入社誓約書の書き方|必須項目・例文10種・無効になる条項チェック
入社誓約書の書き方を、必須項目(就業規則遵守/秘密保持/反社条項/提出書類の真実性)・コピペで使える誓約事項例文10種・無効リスクの高い条項チェックまで、人事担当者向けに実務目線でまとめました。新入社員・中途入社・派遣・アルバイトの場合の違いも整理。
記事を読む誓約書と一緒に身元保証書(保証人を立てる書類)の提出を求められることもよくあります。誰に頼むか・極度額の確認ポイントはこちらにまとめています。

身元保証書とは?書き方・極度額・保証期間・保証人の頼み方まで
入社時の身元保証書とは何かを、本人欄・保証人欄の書き方、極度額の記入、保証期間(定めなければ3年・最長5年)、誰に頼むか、民法改正の要点まで本人向けにまとめました。ひな形と会社への確認文つき。
記事を読む在職中|「今の義務の確認」か「新しい不利益」かで分かれる
在職中に誓約書を求められるのは、情報管理規程の整備、新プロジェクトへの参加、ミスや事故の後などです。この場面では、誓約書の中身が「すでに負っている義務の確認」なのか「新しい不利益の追加」なのかで、取るべき対応が分かれます。
すでに負っている義務の確認なら、拒み続けるのは不利
就業規則の遵守や業務上の秘密保持は、誓約書がなくても雇用契約に伴って負っている義務です。その確認にすぎない誓約書であれば、会社は業務上の必要に基づいて提出を求めることができ、合理的な理由なく拒み続けると、業務上の指示に従わない従業員と評価されるリスクがあります。内容に問題がなければ、署名して失うものは基本的にありません。
新しい不利益を課す条項は、同意なしに強制できない
一方、退職後の競業避止義務、違約金、待遇の引き下げへの同意など、これまで負っていなかった不利益を誓約書で新たに課すことは、本人が同意しない限り強制できません。労働条件の変更には労働者と使用者の合意が原則必要です(労働契約法8条・9条)。「全員に書かせているから」と言われても、不利益条項への署名を断る・修正を求めることは正当な対応です。
また、「ミスをしたら○万円弁償する」「年度途中で辞めたら違約金を払う」のように損害賠償額や違約金をあらかじめ決めておく条項は、労働基準法16条が禁止しており、そもそも違法です(e-Gov法令検索(労働基準法))。こうした条項が入った誓約書は、署名を求められた時点で修正を求めてよいものです。
上司の前で渡されると、その場で署名しないと気まずい雰囲気になりがちです。しかし誓約書は内容を理解してから署名するのが当然の手順で、持ち帰って確認するのはまったく失礼ではありません。その場で署名せず持ち帰る伝え方は、後述の文例を使ってください。
退職時|提出義務はなく、退職の効力にも影響しない
退職時に渡される誓約書(秘密保持・競業避止・損害賠償など)には、提出義務がありません。提出しなくても退職の効力には影響しません。退職は労働者の意思表示で成立するもので、誓約書の提出はその条件ではないからです。3つの場面のなかで、最も堂々と断れるのが退職時です。

「サインしないと最後の給料や退職金が出ないのでは」という不安もここで解消できます。誓約書の提出を拒否したことを理由に給与の支払いを止めることは、賃金全額払いの原則(労働基準法24条)に違反し違法です。給与は誓約書と引き換えにできるものではありません。一方、退職金は就業規則(退職金規程)の定め方によって減額・不支給の争いになることがあるため、規程の内容だけは確認しておいてください。
ただし、貸与品の返却確認や在職中に知った秘密の保持など、応じても実害が少ない条項まで全部突っぱねると、会社との無用な対立を招きます。警戒すべきは競業避止と損害賠償の条項で、それ以外は応じる、という整理が現実的です。条項ごとの見極め方、具体的な断り方の文例、退職金や離職票を盾にしつこく求められた場合の反論は次の記事で詳しく解説しています。

退職時の誓約書の断り方|拒否できる?しつこい場合の対応と文例
退職時の誓約書に署名する法的義務はなく、断っても退職は成立します。応じてよい条項と要注意条項の見分け方、そのまま使える断り方の文例、退職金や離職票を盾にしつこく迫られたときの対応まで解説します。
記事を読むなお、退職の意思表示そのものは誓約書とは無関係に、退職届を提出すれば足ります。書式に迷う場合は退職届テンプレート(無料・登録不要)で作成できます。
全部拒否より「問題条項の特定 → 修正交渉 → 部分署名」
どの場面にも共通する現実解です。全部拒否は会社との関係悪化というコストが大きく、逆に読まずに全部署名すると将来の自分を縛ります。問題のある条項を特定し、修正を交渉し、まとまらなければその条項を除いて署名を提案する——この順序がリスクと実害のバランスが最も良い進め方です。
- 誓約書のコピーをもらい、持ち帰って全条項を読む(その場で署名しない)
- 引っかかる条項に印を付ける(下の「要注意条項」を参照)
- 疑問点をメールなど記録が残る形で質問する
- 問題条項の修正・削除を打診する(「期間を1年に」「対象を○○に限定」のように対案を出すと通りやすい)
- 修正に応じてもらえなければ、「この条項を除けば署名します」と部分署名を提案する
要注意条項の例
- 競業避止条項:「退職後○年間、同業他社に就職しない」。期間・地域・対象業務が無限定のものは無効と判断されやすい条項ですが、署名すれば争いの種になります。
- 違約金・損害賠償の予定:「違反したら○万円支払う」。前述のとおり労働基準法16条違反の疑いが強い条項です。
- 包括条項:「会社の指示にすべて従う」「一切の損害を賠償する」。範囲が無限定で、何に同意したのか特定できない条項です。
労働基準法16条が禁止するのは、金額をあらかじめ決めておくことです。「故意または重大な過失により会社に損害を与えた場合は、実際に生じた損害を賠償する」のように実損の賠償を定めた条項は、直ちに違法とはなりません。ただしその場合も、労働者への賠償請求は判例上、損害の公平な分担の見地から大きく制限されています(最高裁・茨城石炭商事事件)。
修正で合意できたら、合意内容を反映した書面に署名します。書面の作り直しは会社側が行うのが通常ですが、会社側の修正対応に時間がかかっているようなら、合意した内容を反映した修正案をこちらから作って提案しても構いません。誓約書テンプレートを使えば、宛先と条項を入力するだけで体裁の整った修正案を無料で作成でき、話し合いのたたき台になります。
とはいえ、会社が用意した書式に修正を申し入れるのは気が重く、交渉の進め方によっては角が立つこともあります。その場合は、すべての条項に意見を言おうとせず、署名すると実害の大きい条項(競業避止・違約金)だけに絞って交渉するのが現実的です。それも切り出しにくい雰囲気なら、まず「持ち帰って確認したい」と保留して時間を確保し、条項の意味を調べてからどこまで応じるかを決めてください。切り出し方は、この後の文例がそのまま使えます。
保留・確認・修正打診の伝え方文例
断り方で関係を壊さないコツは、「書きたくない」ではなく「内容を理解してから署名したい」という伝え方に変換することです。これなら会社側も拒否ではなく確認の手続きとして受け取れます。そのまま使える文例を3つ用意しました。
口頭のやり取りだけで済ませず、質問・修正依頼はメールなど記録が残る形で行ってください。後から「同意していたはずだ」と言われたときに、確認中だった経緯を示せます。
すでに書かされてしまったら
断れない雰囲気のなかで署名してしまった場合でも、署名した条項がすべてそのまま有効になるとは限りません。脅されて署名したなら強迫による取消し(民法96条)、内容が法外なら公序良俗違反による無効(民法90条)、違約金条項なら労働基準法16条違反による無効を主張できる場合があります。
取消しには追認できる時から5年という期限があり、証拠の確保も早いほど有利です。署名後の対処法・取消通知の文例・相談先は次の記事で確認してください。

誓約書を書かされた|無効・取消しにできるケースと個人の対処法
脅されて・断れない雰囲気で誓約書を書かされた個人へ。署名した誓約書が原則有効とされる理由、強迫・詐欺・錯誤・公序良俗違反など無効・取消しを主張できるケース、取消しの期限(5年・20年)、内容証明で送る取消通知の文例、相談先までまとめました。
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コラム著者・編集者
TEMPLEX編集チーム
TEMPLEX編集チームは、ビジネス文書の作成・管理に精通した実務経験者と技術ライターで構成されています。送付状・請求書・見積書をはじめとする各種ビジネス書類のフォーマットや書き方のノウハウを、わかりやすく丁寧にお届けします。「Office不要で誰でもすぐ使える」をコンセプトに、忙しいビジネスパーソンの書類作成をサポートします。









