覚書の日付の書き方|締結日・効力発生日・バックデートの注意点

覚書に書く日付は「締結日」が基本
覚書に記載する日付は、当事者全員が署名(記名押印)した日、つまり「締結日」です。覚書は双方の合意を記録する書面であり、最後の署名者が署名した時点で成立します。日付欄には、その最後に署名が完了した日を書いてください。
対面で同時に署名する場合はその日がそのまま締結日になります。一方、郵送で覚書をやりとりする場合は、先に署名した側と後から署名した側で日が異なります。このとき覚書に記載する日付は後の署名者が署名した日(=合意が成立した日)にするのが実務上の通例です。先に署名した側が日付を空欄にしておき、後から署名する側が日付を記入する運用が一般的です。
- 対面の場合 → 署名した当日を日付欄に記入
- 郵送の場合 → 後の署名者が署名した日を記入(先の署名者は日付欄を空けて送る)
- 電子契約の場合 → 最後の署名者が電子署名を完了した日(システムに記録される)
署名日と作成日が違っても問題ありません。覚書の「日付」とは書面を作成した日ではなく「合意が成立した日」を指します。Wordで文面を作った日が6月1日でも、署名が6月10日なら日付欄は6月10日と記入します。
覚書が課税文書に該当する場合、収入印紙を貼って消印をするタイミングは「文書の作成時=当事者双方が署名押印した日(締結日)」です。効力発生日ではなく締結日が基準となる点に注意してください。

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締結日と効力発生日が異なるケース
覚書を交わした日から合意内容を有効にしたいなら、日付欄の締結日だけで十分です。しかし実務では「今日署名するが、変更の適用は来月1日から」というケースがあります。締結日と効力発生日が異なる場合は、本文中に効力発生日を明記する条項を入れます。
たとえば、7月1日から単価を変更する覚書を6月25日に署名する場合、日付欄には締結日の6月25日を記載し、本文で効力発生日を指定します。次のような条項を入れてください。
効力発生日を定めるパターンは大きく3つあります。将来の特定日、条件成就時、そして遡及適用です。
| パターン | 条項例 | 使う場面 |
|---|---|---|
| 将来の特定日 | 「2026年7月1日より効力を生じる」 | 来月からの単価改定・契約更新など |
| 条件成就時 | 「甲の取締役会の承認を得た日より効力を生じる」 | 社内承認が必要な変更 |
| 遡及適用 | 「2026年4月1日に遡って効力を生じる」 | 合意は取れていたが書面化が遅れた場合 |
遡及適用は合意済みの実態を書面に反映する正当なケースもありますが、日付欄そのものを過去日付にする「バックデート」とは区別してください。次のセクションで違いとリスクを説明します。
バックデート(遡及日付)の注意点
バックデートとは、覚書の日付欄に実際の署名日より前の日付を記載することです。「合意の内容を過去に遡って適用する」こと自体は民法上の契約自由の原則(民法521条)により当事者間では有効ですが、日付欄を偽る行為は、税務・第三者対抗・刑事上のリスクがあります。
「遡及適用」と「バックデート」の違い
正しいやり方は、日付欄には実際の署名日を書いたうえで、本文に「2026年4月1日に遡って適用する」と明記する方法です。これなら「署名は6月だが、効力は4月から」という事実を正確に記録できます。一方、日付欄そのものを4月にしてしまうと、実際には存在しなかった合意が4月時点で成立していたように見せかけることになり、以下のリスクが生じます。
- 税務リスク:経費の計上時期や消費税の課税期間がずれると、過少申告と判断される可能性がある。税務調査で覚書の日付と実態の不一致を指摘されると修正申告・加算税の対象になり得る
- 第三者対抗リスク:覚書の日付は第三者(取引先・債権者など)に対する証拠にもなる。実態と異なる日付の書面は、第三者から見て信用されず、証拠として争われる原因になる
- 刑事リスク:日付を偽って作成した文書は、内容虚偽の文書として私文書偽造(刑法159条)に問われる可能性がある。特に補助金申請や融資審査に提出する場合はリスクが高い
合意の実態が過去にあったとしても、日付欄は必ず実際の署名日にしてください。遡及が必要なら本文中に「○年○月○日に遡って適用する」と条項を書くのが安全な方法です。
取引先から「社内稟議の都合で先月の日付にしてほしい」と求められた場合でも、応じると自社も私文書偽造等の共犯リスクを負います。「締結日は本日のまま、効力発生日を○月○日とする」旨の遡及適用条項を提案してください。これにより先方の実務上の要望にも応えつつ、法的リスクを回避できます。
覚書に日付がないとどうなる
覚書の法的効力に「日付の記載」は要件ではありません。日付がなくても覚書は無効にはならず、署名があれば合意の証拠として使えます(民事訴訟法228条4項:本人の署名または押印がある文書は真正に成立したと推定される)。
ただし、日付がないと「いつ合意したのか」を客観的に証明できません。合意の成立時期が争われる裁判では、日付のない書面は証拠力(証明力)が大幅に下がります。時効の起算点や契約変更の適用開始日が問題になるケースでは、日付がないことが致命的な弱点になります。
確定日付の取得方法
「この書面がこの日には存在していた」ことを公的に証明する方法として、確定日付があります(民法施行法5条)。確定日付を取得しておけば、日付の信用性を第三者にも主張できます。
- 公証役場で確定日付を押してもらう(手数料700円):覚書の原本を持参し、公証人が日付印を押す。内容の審査はなく、その日にその書面が存在したことだけを証明する
- 内容証明郵便で送付する:郵便局が文面と日付を記録するため、確定日付と同じ効力がある(民法施行法5条1項6号)。ただし送付する書面の字数・行数に制限がある
- 電子契約サービスを利用する:タイムスタンプ(時刻認証)が自動付与されるため、確定日付と同等の証明力を得られる
電子契約サービスを利用する場合、システムが合意締結日時を自動的に記録するため、書面上の日付欄自体が不要になる(またはシステムが自動印字する)ケースが多くなっています。タイムスタンプが確定日付と同等の証明力を持つため、日付の記載漏れや誤記のリスクも解消されます。
実務上、会社間の取引覚書で確定日付まで取るケースは多くありません。ただし、金銭に関する合意や、のちに紛争化する可能性がある案件では、700円で証明力を上げられる確定日付の取得を検討する価値があります。
和暦・西暦どちらで書くか
覚書の日付は和暦でも西暦でも法的に有効です。法律上、いずれかの表記を義務づける規定はありません。どちらを選んでも覚書の効力に影響はないため、実務上のポイントだけ押さえておけば十分です。
- 原契約が和暦なら覚書も和暦、西暦なら西暦に揃える。同じ契約関係の書面で表記が混在すると読みにくい
- 官公庁への提出書類は和暦が慣例(公文書が和暦で統一されているため)
- 外資系企業や英文契約を併用する取引先とは西暦のほうが合わせやすい
- 和暦は「R」「H」と略さず「令和○年○月○日」と正式に書く。西暦は「2026年○月○日」と4桁で記載する(下2桁省略はしない)
迷ったら原契約の表記に合わせるのが最も確実です。覚書は原契約を補足・変更する書面なので、同じ書式で揃えたほうが一体性が伝わります。原契約がない場合(新規の合意を覚書にするケース)は、自社の社内書類で使われている表記に合わせてください。
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