覚書と契約書の違い|使い分けの判断基準と法的効力

覚書と契約書の違い|使い分けの判断基準と法的効力

結論:法的効力に差はない

覚書と契約書のどちらで作成すべきか迷ったとき、まず知っておくべき事実があります。法的効力に優劣はありません。裁判所は書面のタイトルではなく中身(当事者の意思表示と合意内容)で判断するため、「覚書」と題した文書でも契約として扱われますし、「契約書」でも中身が曖昧なら効力が争われます。

つまり使い分けの基準は「どちらが法的に強いか」ではなく、取引の段階・内容に合った名称はどちらかです。具体的には、既存契約の部分変更や暫定合意には覚書、新規取引で権利義務を一から定めるなら契約書が適しています。以下で違いを一覧表にまとめ、それぞれの使いどころを詳しく見ていきます。

スポンサーリンク

覚書と契約書の違い一覧表

実務で気になるポイントを5項目で比較しました。繰り返しになりますが、法的効力は名称では変わらないため、「覚書だから軽い」「契約書だから絶対」ということはありません。

項目覚書契約書
名称の意味合意した内容の記録・確認書面権利義務を定める正式な合意書面
典型的な用途既存契約の変更・補足、暫定合意(LOI)、基本合意書新規取引の条件設定、業務委託・売買・賃貸借など
作成タイミング本契約の前後(変更時・交渉段階)取引開始時・条件が確定したとき
通数原則2通(当事者各1通)原則2通(当事者各1通)
収入印紙内容が課税文書に該当すれば必要(名称では判断されない)内容が課税文書に該当すれば必要(同上)
覚書と契約書の違い

収入印紙の要否は名称ではなく記載内容で判定されます。覚書でも契約金額や支払方法など重要事項を変更する内容なら課税文書になり得ます(国税庁タックスアンサーNo.7127)。

覚書に収入印紙は必要?金額一覧と4000円のケース
覚書

覚書に収入印紙は必要?金額一覧と4000円のケース

覚書に収入印紙が必要かどうかは文書の名称ではなく記載内容で決まります。課税・非課税の具体シーン、第1号・第2号・第7号文書の印紙税額一覧、4000円になるケース、電子覚書の非課税根拠、貼り忘れの過怠税まで解説。

記事を読む

覚書を使うべき場面

覚書が適しているのは、すでにある合意を土台にして、その一部を調整・補足する場面です。ゼロから条件を組み立てるのではなく、既存の取り決めを前提に変更点だけを書面にまとめます。

既存契約の部分変更

契約金額の改定、支払期日の変更、業務範囲の追加・縮小など、元の契約書はそのまま残し、変更点だけを覚書で合意します。契約書を全面的に作り直す手間が省け、原契約と覚書をセットで保管することで変更履歴がたどれます。

暫定合意・基本合意書(LOI)

正式契約の前段階で、大枠の条件に双方が合意していることを書面に残す場面です。M&Aの基本合意書や、取引開始前の独占交渉権の付与など、「まだ細部は決まっていないが方向性を固めたい」ときに覚書が使われます。正式な契約書ができた時点で覚書の役目は終わります。

基本合意書(LOI)として覚書を作成する場合、正式契約の前段階であるため「本覚書は法的拘束力を有しない」という一文(Non-binding条項)をあえて入れるケースが実務上多くあります。この記載がないと、覚書の内容が法的な義務として拘束される可能性があるため、意図を明確にしておきましょう。

補足事項の追加

元の契約書に書かれていなかった事項(秘密保持の範囲拡大、担当者変更時の通知義務、災害時の対応ルールなど)を後から追加するケースです。契約書を改訂するほどではないが、口約束では不安が残る事項を書面化しておきたいときに便利です。

覚書の具体的な書き方や条件変更の例文は次の記事で詳しく紹介しています。

覚書の書き方|構成・例文テンプレートと注意点
覚書

覚書の書き方|構成・例文テンプレートと注意点

覚書に書くべき6項目と、基本合意・秘密保持・業務委託変更の3パターンの例文テンプレートを紹介。曖昧表現の回避や原契約との整合性など、作成時の注意点もまとめました。

記事を読む

契約書を使うべき場面

契約書が適しているのは、取引の権利義務を一から定める場面です。覚書が「既存の土台を調整する」書面なのに対し、契約書は「土台そのものを作る」書面と考えると使い分けがはっきりします。

新規取引の開始

はじめて取引する相手との業務委託、物品の売買、不動産の賃貸借など、まだ合意の土台がない段階では契約書を使います。目的・対価・期間・解除条件・損害賠償など、取引に必要な条件を漏れなく網羅するのが契約書の役割です。

高額取引・長期取引

金額が大きい、あるいは契約期間が長い取引では、トラブル時のリスクが高くなります。覚書でも法的には有効ですが、条項の抜け漏れがあると紛争時に不利になりかねません。数百万円以上の取引や数年にわたる継続取引では、条項を網羅した契約書のほうが安全です。

法令で契約書の作成が求められるケース

建設業法に基づく工事請負や、労働者派遣法に基づく派遣契約など、法令で書面の作成と記載事項が義務付けられている取引があります。こうした場面では覚書ではなく、法定の記載事項を満たした契約書を作成する必要があります。

法的な効力は同じでも、「一定金額以上の取引は『契約書』の名称で法務審査を通す」といった社内規定(稟議ルール)を設けている企業は少なくありません。自社や取引先にこうした内部ルールがある場合は、実務上の手続きに合わせて名称を選ぶことも大切です。

覚書の積み重ねリスクと契約書改訂のタイミング

覚書は手軽に作れるぶん、変更のたびに覚書を追加していくと「原契約+覚書第1号+第2号+第3号…」と書面が増え、現在有効な条件がどの書面に書いてあるのか分からなくなります。これが覚書の積み重ねリスクです。

目安として、覚書が3回以上重なったら、契約書を改訂して条件を1本に統合することを検討してください。改訂版の契約書を作成し、旧契約書と全覚書を失効させる条項(「本契約の締結をもって、○年○月○日付原契約および関連する覚書はすべて失効する」)を入れれば、その時点からは改訂版の契約書1通だけを見ればよい状態になります。

  • 覚書が1〜2通:原契約と覚書をセットで管理すれば問題ない
  • 覚書が3通以上:契約書の改訂(条件統合)を検討する時期
  • 矛盾する覚書がある:優先順位が不明確になるため、早急に改訂すべき

改訂時に見落としがちなのが、覚書同士の矛盾です。たとえば「覚書第1号で支払期日を月末に変更」→「覚書第3号で翌月15日に再変更」のような場合、第1号が明示的に失効していないとどちらが有効か争いになる可能性があります。改訂版契約書ではすべての覚書を列挙して失効させるのが確実です。

裁判所は書面の中身で判断する

ここまで「法的効力に差はない」と繰り返してきましたが、その法的根拠を確認しておきます。民法上、契約は当事者の合意のみで成立し、書面の作成その他の方式は要求されていません(民法522条、出典:e-Gov法令検索 民法522条)。つまり書面のタイトルが「覚書」でも「契約書」でも、合意内容が同じであれば法的効力に差は生じません。

さらに裁判で証拠として提出する場合も、民事訴訟法228条4項により署名または押印のある文書は真正に成立したものと推定されるため、名称の違いは証拠力にも影響しません(出典:e-Gov法令検索 民事訴訟法228条)。

裁判では、書面のタイトルにかかわらず「当事者間に合意があったかどうか」「合意の内容は何か」が争点になります。「覚書」と題した書面でも、売買の目的物・代金・引渡し条件が明記されていれば売買契約として扱われます。逆に「契約書」と題していても、合意内容が曖昧であれば有効性が否定されることがあります。

したがって、覚書と契約書の使い分けで大切なのは名称の選択よりも、合意内容を具体的に・漏れなく書くことです。「誰が」「何を」「いつまでに」「どのような条件で」行うかが書面から読み取れる状態にしておけば、覚書でも契約書でも裁判の証拠として同等に機能します。

誓約書・念書・確約書・同意書なども含めて、書類の名称全般の使い分けに迷っている場合は、6種類の書類を比較した次の記事が参考になります。

誓約書・念書・確約書・契約書の違い|法的拘束力と使い分けマトリクス
誓約書・同意書

誓約書・念書・確約書・契約書の違い|法的拘束力と使い分けマトリクス

誓約書・念書・確約書・契約書・同意書・覚書の違いを、法的拘束力/署名押印の片務・双務/典型シーンの3軸で整理。それぞれの典型的な使い分けと、書類選びで迷ったときの判定フロー、確約書とは何かまでコピペ例文付きで解説します。

記事を読む

また、覚書と似た書類に「念書」があります。覚書は双方の合意を記録する書面ですが、念書は一方だけが差し入れる約束文書です。両者の違いと使い分けは以下の記事で詳しく解説しています。

念書と覚書の違い|どちらで書くべきかの判断基準と書き換え例文
念書

念書と覚書の違い|どちらで書くべきかの判断基準と書き換え例文

念書と覚書の違いは「署名する人数」です。一方だけが約束を差し入れるなら念書、双方の合意を残すなら覚書。迷ったときの判断基準、同じ内容を念書・覚書それぞれで書いた例文、法的効力と収入印紙の扱いまでまとめました。

記事を読む
覚書の法的効力|有効になる条件と無効になるケース
覚書

覚書の法的効力|有効になる条件と無効になるケース

覚書は署名と具体的な合意内容があれば契約書と同等の法的効力を持ちます。有効になる3条件(当事者の特定・合意内容の具体性・署名または記名押印)、無効・取消しになるケース、効力を高める方法、破った場合の法的手段まで解説します。

記事を読む

覚書をTEMPLEXで作成

覚書と契約書の違いが分かったら、あとは内容を詰めるだけです。TEMPLEX覚書テンプレートなら、フォームに入力するだけで登録不要・無料でPDFをダウンロードできます。契約金額の変更、支払期日の変更など、よく使う覚書のパターンをそのまま使えます。

TEMPLEXの覚書テンプレート
TEMPLEXの覚書テンプレート

スポンサーリンク

覚書をすぐに作成しませんか?

TEMPLEXなら、フォームに入力するだけで覚書のPDFを作成・ダウンロードできます。

覚書のテンプレートを見る

コラム著者・編集者

TEMPLEX編集チーム

TEMPLEX編集チームは、ビジネス文書の作成・管理に精通した実務経験者と技術ライターで構成されています。送付状・請求書・見積書をはじめとする各種ビジネス書類のフォーマットや書き方のノウハウを、わかりやすく丁寧にお届けします。「Office不要で誰でもすぐ使える」をコンセプトに、忙しいビジネスパーソンの書類作成をサポートします。

関連記事

新着記事