内定承諾書の法的効力|提出するとどうなる?拘束力と誓約事項

内定承諾書を出す前に知っておきたいこと
内定承諾書に署名・押印して提出すれば、もう後戻りできないのではないか。誓約事項に書かれた内容にすべて縛られてしまうのではないか。そう不安に感じて、ペンを止めている方は少なくありません。
結論を先に言うと、内定承諾書の提出によって会社との間に労働契約が成立する一方、提出後でも一定の手続きを踏めば辞退する余地は残されています。「契約が成立する」ことと「一生縛られる」ことはイコールではありません。提出前にどこまで縛られるのかが分かれば、不安なく署名できます。最高裁判例と条文をもとに、その境界を順に確認していきましょう。
このページは内定承諾書の法的な性質を扱います。実際に辞退するときの伝え方・タイミング・トラブル回避の手順は、次の記事にまとめています。

内定承諾書を出した後でも辞退できる?|可否・進め方・損害賠償の有無
内定承諾書を提出した後でも辞退は可能です。民法627条・労働基準法16条・採用内定の判例を根拠に、入社承諾書を出した後の辞退の可否、連絡から退職までの進め方、損害賠償が請求されるかの目安を整理しました。
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内定で労働契約は成立する(始期付解約権留保付労働契約)
内定の法的性質について、最高裁判所は始期付解約権留保付労働契約(しきつきかいやくけんりゅうほつきろうどうけいやく)が成立すると判断しました(大日本印刷事件・最高裁昭和54年7月20日判決)。応募者の応募が「申込み」、会社の採用内定通知が「承諾」にあたり、この時点で労働契約そのものは成立する、という考え方です。
長い名前ですが、分解すると意味がつかめます。
- 始期付:働き始める日(入社日)が将来に設定されている。契約は成立しているが、就労や賃金の効力は入社日から始まる。
- 解約権留保付:入社日までの間、会社側に「一定の場合には契約を解約できる権利」が留保されている。これが内定取消しの法的な根拠になる。
- 労働契約:内定の段階で、すでに労働契約は成立している。単なる「採用予定」「口約束」ではない。
つまり内定承諾書は、この成立した労働契約を当事者の双方が確認し、本人の入社意思を書面に残すための文書という位置づけです。承諾書を出した瞬間に契約が生まれるのではなく、内定通知の時点ですでに契約は成立している点が、よくある誤解との違いです。
ただし最高裁は、すべての内定が一律に労働契約の成立にあたると述べたわけではありません。個々の採用の事実関係に即して判断するという立場です。実態として、新卒採用で内定通知を受け承諾書を提出した一般的なケースでは、労働契約の成立が認められると考えてよいでしょう。
なお、正式な内定(多くは卒業年度の10月1日以降)より前の「内々定」の段階では、まだ労働契約そのものは成立していないと判断されることが多く、拘束力はさらに弱いとされています。厚生労働省も、内々定は内定に比べて労働契約が成立したとの認識には至っていない場合が多いと説明しています(内々定・内定の取消し/辞退|厚生労働省)。
提出後の拘束力はどの程度か(辞退の自由は残る)
労働契約が成立しているなら、もう抜けられないのか。ここが多くの人の不安の核心ですが、答えは「いいえ」です。労働者には退職の自由が保障されており、内定段階の辞退も同じ枠組みで認められます。
期間の定めのない雇用(正社員など)では、民法627条1項が「各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する」と定めています(民法627条・e-Gov法令検索)。入社後の退職と同じく、内定の辞退も申し出から2週間が経過すれば、会社の同意がなくても契約を終了させられるのが原則です(※契約社員など期間の定めがある雇用の場合は民法628条が適用され、入社前の辞退には「やむを得ない事由」が必要になるなど、ルールが一部異なります)。
内定承諾書に「提出後の辞退は認めない」と書かれていても、この退職の自由を奪うことはできません。憲法が保障する職業選択の自由とも結びつくため、承諾書の文言だけで辞退を完全に封じることは法律上できないと理解しておきましょう。
「辞退できる」ことと「いつ辞退しても問題が起きない」ことは別です。入社直前の一方的な辞退などで会社に具体的な損害が生じれば、例外的に責任を問われる余地はあります。実際に辞退する際の進め方は、別記事で詳しく解説しています。
「辞退したら違約金」は無効(労働基準法16条)
内定承諾書のなかに「内定を辞退した場合は違約金○万円を支払う」「会社が被った費用を全額賠償する」といった条項があると、強い拘束力を感じてしまいます。しかし、こうした定めは労働基準法16条によって禁止されており、無効です。
同条は「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と規定しています(労働基準法・e-Gov法令検索)。あらかじめ賠償額や違約金を決めておく「足止め策」を禁じる趣旨で、労働者が退職・辞退をためらわないようにするための規定だと厚生労働省も説明しています(賠償予定の禁止・和歌山労働局)。
- 禁止されるもの:「辞退したら○万円」「途中で辞めたら研修費を全額返還」など、金額をあらかじめ取り決める条項。
- 禁止されないもの:現実に労働者の行為で会社に損害が生じた場合に、その実損害について事後に賠償を請求すること自体は、16条では否定されていない。
つまり、承諾書に違約金条項があってもその条項に縛られて支払う義務は生じません。ただし、これは「どんな辞退でも一切責任を問われない」という意味ではなく、あくまで事前に決めた違約金が無効だという話です。
では、現実の損害賠償が認められる余地はどのくらいあるのか。結論から言えば、実際に賠償が認められるのは極めて限定的なケースに限られます。想定されるのは、入社直前まで辞退する素振りを見せず会社に具体的な出費をさせた直後に連絡を絶つような身勝手な辞退や、信義則に著しく反する嫌がらせ的な辞退など、ごく一部の事案です。
辞退の意思が固まった時点で速やかに、きちんと連絡を入れていれば、まず賠償が問題になることはありません。通常の辞退であれば、損害賠償を過度に恐れる必要はないと考えてよいでしょう。
誓約事項はどこまで有効か
内定承諾書には、入社にあたっての誓約事項が並んでいることがあります。就業規則の遵守、秘密保持、提出書類の記載が真実であること、反社会的勢力でないこと、といった内容です。これらは公序良俗や強行法規に反しない限り、本人の意思表示として有効に働きます。
一方で、署名したからといってあらゆる文言が無条件に通るわけではありません。次のような条項は、内容しだいで効力が制限・否定されます。
- 退職・辞退の自由を奪う条項:「自己都合の退職は認めない」などは、民法627条の退職の自由に反するため効力が及ばない。
- 違約金・賠償額の予定:前述のとおり労働基準法16条で無効。
- 過度な私生活の制限・人権侵害:合理性を欠く制約は公序良俗違反(民法90条)として無効になりうる。
- 無限定の競業避止:期間・地域・対象業務を限定しない競業避止は、無効と判断されやすい。
なお、提出書類に虚偽があった場合(経歴詐称など)は、誓約事項に書いていなくても内定取消しの理由になりえます。誓約事項に署名する意味は、守るべき内容を本人が確認し約束した証拠を残す点にあると捉えると、過度に身構える必要はありません。
身元保証書の有効性(期間と極度額のルール)
内定承諾書と一緒に、身元保証書の提出を求められることがあります。これは、入社後に本人が会社に損害を与えた場合に、保証人が一定の責任を負うという書面です。身元保証には「身元保証ニ関スル法律」による上限ルールがあり、保証人の責任は無制限ではありません(身元保証ニ関スル法律・e-Gov法令検索)。
- 期間の上限:期間を定めなかった場合は成立日から3年で効力が切れる。期間を定めても上限は5年で、5年を超える定めは5年に短縮される。
- 自動更新は不可:「自動的に更新する」という特約があっても、同法により無効。更新には改めて合意が必要。
- 極度額の定めが必須:2020年4月の民法改正により、保証人が負う上限額(極度額)を書面で定めていない身元保証契約は無効となる。
- 賠償額は裁判所が調整:実際に賠償責任が問われる場面では、使用者側の過失や事情を考慮して、裁判所が責任の有無や金額を判断する。
身元保証は「保証人が会社の損害をすべて肩代わりする」ものではありません。極度額の記載がない身元保証書はそもそも無効なので、提出を求められたら金額の記載と期間を確認しておくと安心です。気になる場合は、会社に「上限額(極度額)の記載はありますか」と確認してみるのも手です。
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会社側からの内定取消しは自由にできない
拘束されるのは応募者だけ、というイメージを持たれがちですが、労働契約が成立している以上、会社側も自由に内定を取り消すことはできません。前述の解約権は留保されているものの、その行使には厳しい条件が課されています。
大日本印刷事件で最高裁は、内定取消しが許されるのは「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として内定を取り消すことが解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認できる場合に限られる」と判示しています(東町法律事務所コラム)。要するに、解雇に準じる正当な理由がなければ内定取消しは違法になります。
また、入社後に「聞いていた条件と違う」という事態が起きた場合、労働基準法15条2項により、明示された労働条件が事実と相違するときは、労働者は即時に労働契約を解除できるとされています(労働基準法・e-Gov法令検索)。承諾書を出したからといって、不利な条件を一方的に押し付けられるわけではありません。
法律で守られていても「筋」は通す
法的には辞退も撤回もでき、原則として賠償を求められることもない——とはいえ、企業はあなたの入社を前提に受け入れの準備を進め、ほかの応募者を断っていることも少なくありません。法律で守られている=何をしても許される、ではありません。辞退や撤回をするなら、人として筋を通して誠実に対応することが、結局はいちばんのトラブル回避になります。
辞退・撤回するときに筋を通す基本
- 決めたら、できるだけ早く連絡する(企業の損失と迷惑を最小限にする)
- まず電話で担当者に直接伝える(メールやチャットだけで済ませない。つながらないときはメールで一報を入れ、改めて電話する)
- 迷惑をかけたことを、率直にお詫びする
- 採用・選考に時間を割いてもらったことへの感謝を伝える
- 理由を聞かれたら誠実に答える。ただし、他社や提示条件への不満をぶつける言い方は避ける
- 転職・就活エージェント経由で内定をもらった場合は、企業に直接連絡せず、まず担当エージェントに相談する
謝罪で大切なのは「早さ・直接・誠実さ」です。連絡が遅い・音信不通・一方的なメール一本が、いちばん心証を悪くし、トラブルにつながります。まずは次の一言を、自分の状況に合わせて少し直して伝えれば十分です。
電話の切り出し方や、状況別の辞退メールの文面は内定辞退メールの例文に、辞退できるかどうかの可否や進め方の全体像は辞退の進め方の記事にまとめています。誠実に筋を通せば、円満に終わるケースがほとんどです。
まとめ:提出してもバランスは保たれている
内定承諾書を提出すると何が起こるのか、要点を振り返ります。
- 内定で労働契約が成立する:最高裁の言う始期付解約権留保付労働契約。承諾書はその確認書面。
- 辞退の自由は残る:民法627条により、原則として申し出から2週間で契約を終了できる。
- 違約金条項は無効:労働基準法16条で、辞退の違約金や賠償額の予定は禁止。
- 誓約事項・身元保証にも上限がある:公序良俗・強行法規に反する条項や、極度額のない身元保証は効力が制限される。
- 会社も自由に取消せない:内定取消しには客観的に合理的で社会通念上相当な理由が必要。
内定承諾書は、応募者を一方的に縛る片務的な文書ではありません。会社と応募者の双方に権利と制約を生む、バランスの取れた仕組みになっています。法的な性質を理解したうえで、納得して提出するかどうかを判断してください。
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コラム著者・編集者
TEMPLEX編集チーム
TEMPLEX編集チームは、ビジネス文書の作成・管理に精通した実務経験者と技術ライターで構成されています。送付状・請求書・見積書をはじめとする各種ビジネス書類のフォーマットや書き方のノウハウを、わかりやすく丁寧にお届けします。「Office不要で誰でもすぐ使える」をコンセプトに、忙しいビジネスパーソンの書類作成をサポートします。









