内定承諾書を出した後でも辞退できる?|可否・進め方・損害賠償の有無

内定承諾書を出した後でも辞退できる
内定承諾書(入社承諾書)に署名して提出してしまった――それでも、辞退はできます。承諾書を出したからといって入社を強制されることはなく、他社に決めた・条件が合わなくなったといった理由でも辞退は認められます。「もう承諾書を出したから手遅れだ」という思い込みで動けなくなっている人がいちばん損をします。
理由は、内定の承諾によって成立しているのが「労働契約」であり、働く側はいつでもその契約を解約する自由を持っているからです(民法627条1項)。退職の自由が新入社員にも当てはまる、というのが法律の建付けです。
ただし「できる/できない」と「気持ちよく辞退できる」は別問題です。早く連絡するほど企業側の損害も自分の心理的負担も小さくなるので、迷っている段階でも結論が固まり次第すぐ動くのが鉄則です。
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辞退できる法的根拠(民法627条・労働基準法16条・判例)
なぜ承諾書を出した後でも辞退できるのか。根拠は次の3つです。いずれも「承諾書という紙の有無」ではなく法律と判例で決まっているため、承諾書に何と書いてあっても結論は変わりません。
内定の正体は「労働契約」(大日本印刷事件)
採用内定の法的性質について、最高裁は内定を「始期付解約権留保付労働契約」と判断しました(大日本印刷事件・最高裁 昭和54年(1979年)7月20日判決)。入社日(始期)が来るまで実際の就労は始まらないものの、内定の段階ですでに労働契約自体は成立している、という考え方です。つまり内定者と企業は、就労前とはいえ労働契約で結ばれた当事者の関係にあります。
働く側はいつでも解約できる(民法627条)
その労働契約を、働く側から終わらせる権利を定めているのが民法627条1項です。条文は「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する」と定めています(e-Gov・民法627条)。正社員のような期間の定めのない契約なら、辞退(解約)を申し入れてから2週間で契約は終了します。企業の同意は要件ではありません。
この2週間ルールは、正社員など雇用期間の定めがない契約に限った話です。契約社員などの有期雇用は民法628条が適用され、入社前の辞退にも「やむを得ない事由」が必要になるなど、ルールが一部異なります。自分がどちらの契約かは内定通知書・労働条件通知書で確認してください。
ペナルティの取り決めは無効(労働基準法16条)
「内定を辞退したら違約金○万円」といった取り決めがあっても気にする必要はありません。労働基準法16条は、労働契約の不履行について違約金や損害賠償額をあらかじめ決めておくこと(賠償予定)を禁止しています(e-Gov・労働基準法16条)。違反すれば罰則の対象にもなる強い規定です。承諾書に違約金条項が紛れていても、その条項自体が無効になります。
| 根拠 | 内容 | 辞退者にとっての意味 |
|---|---|---|
| 大日本印刷事件(最高裁S54.7.20) | 内定は始期付解約権留保付労働契約 | 辞退=労働契約の解約という位置づけになる |
| 民法627条1項 | 期間の定めのない雇用はいつでも解約でき、2週間で終了 | 理由を問わず辞退でき、企業の承諾は不要 |
| 労働基準法16条 | 違約金・損害賠償額の予定を禁止 | 「辞退したら違約金」という条項は無効 |
いつまでに辞退すればいい?(入社日の2週間前が目安)
民法627条1項のとおり、解約の申入れから2週間で契約は終了します。逆算すると、入社日の2週間前までに辞退を申し入れれば、法律上は確実に間に合うことになります。入社前日や当日であっても辞退自体は可能ですが、企業側の準備が進んでいるほどトラブルになりやすいため、ぎりぎりは避けます。
現実には「2週間前ならOK」を待つ必要はありません。辞退すると決めたその日に連絡するのが最善です。配属・備品・受け入れ研修の手配は入社のかなり前から動いており、連絡が早いほど企業の実損も小さく、後述する損害賠償リスクも下がります。
すでに入社して働き始めている場合は「内定辞退」ではなく退職の手続きになりますが、入社直後でも2週間前の申し出で退職できる点は同じです(試用期間中も民法627条が適用されます)。
内定辞退の進め方(連絡から完了まで)
辞退の連絡は、次の手順で進めると行き違いが起きにくくなります。まず電話で一報を入れ、その記録としてメールを残すのが基本形です。
- 辞退を決めたら、できるだけ早く採用担当者へ電話する(営業時間内・始業直後や昼休みは避ける)
- 辞退の意思と、短いお詫び・お礼を口頭で伝える(理由は簡潔に。詳しく言う義務はない)
- 電話がつながらない場合は、まずメールで第一報を入れ、改めて電話する旨も書いておく
- 電話後、辞退の事実を残すために確認のメールを送る(言った・言わないを防ぐ記録になる)
- 提出済みの書類の返却や、貸与物・受け取った資料があれば返送方法を確認する
- 万一に備え、送ったメールや返信は入社予定日以降もしばらく保管しておく
連絡手段は電話を基本にしつつ、辞退した事実が形に残るメールを必ず併用します。メールだけ・電話だけより、口頭で誠意を伝えたうえで記録を残す二段構えが安全です。そのまま使えるメール文面は、次の記事にまとめています。

内定辞退メールの例文|内々定・承諾後辞退の書き方とマナー
内定辞退メールの書き方を例文付きで解説。内々定の辞退、承諾後の辞退、複数内定の場合など状況別のテンプレートと、電話との使い分けも紹介します。
記事を読む気まずさを減らし、スムーズに辞退するコツ
内定辞退でいちばん負担になるのは、法律や手続きよりも「申し訳なさ」や「気まずさ」という気持ちの面です。ただ、罪悪感から連絡を先延ばしにするのが、相手にとっても自分にとっても一番こじれる対応になります。辞退は働く人の正当な選択で、決して珍しいことではありません(同じように悩む人がどれくらいいるかは辞退率のデータで確認できます)。「迷惑をかける」と縮こまるより、誠実さは「早さ」と「伝え方」で示すと考えると、ぐっと動きやすくなります。
相手の気持ちに配慮する3つのポイント
- 感謝を最初に伝える:選考や内定をいただいたお礼を述べてから辞退を切り出すと、相手も受け止めやすくなる
- お詫びは簡潔に、言い訳を重ねない:長い弁明より、短く誠実な一言のほうが気持ちは伝わる
- 他社や条件の不満を理由にしない:相手の会社を否定する言い方は避け、「自分の事情・キャリアの選択」として伝える
電話の気まずさを乗り越える
メールだけで済ませると事務的で冷たい印象になりがちです。気が重くても、まず電話で一報を入れるほうが、結果的に角が立ちません。完璧に話す必要はなく、最初のひと言だけ決めておけば落ち着いて話せます。そのまま使える電話のトーク例とメール文面は内定辞退メールの例文にまとめています。
強い引き止めに遭っても、感謝を伝えつつ、意思は穏やかにはっきり示すのがコツです。説得合戦にせず「ありがたいお話ですが、よく考えた結論です」と繰り返せば十分。執拗な引き止め(オワハラ)への対処は怒られる・賠償が心配なときの記事で扱っています。最後まで誠実に対応しておけば、狭い業界で将来また会っても気まずくならず、むしろ好印象が残ります。
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辞退の理由はどこまで伝える?
辞退の理由を細かく説明する法的義務はありません。「他社で内定を承諾した」「家庭の事情」程度の簡潔な伝え方で十分です。理由を盛りすぎると追加の引き止めや質問を招き、かえって話が長引くこともあります。
一方で、無断で連絡を絶つ(バックレる)のは避けてください。企業は内定者が来る前提で受け入れ準備を進めており、音信不通は損害賠償が問題になりやすい数少ないケースに当たります。理由は最小限でよいので、連絡そのものは必ず入れる、というのが分かれ目です。理由の伝え方の具体例は次の記事で扱っています。

内定辞退で使える正当な理由4選と例文|承諾後でも角を立てない伝え方
入社承諾書を出した後の辞退で「正当な理由」を探している人へ。他社内定・家庭の事情・健康・条件相違という4つの理由の伝え方と、そのまま使える言い回し例、嘘をつくと損する理由をまとめました。
記事を読む損害賠償を請求される?(原則なし・例外の境界)
もっとも不安が大きいのが損害賠償でしょう。結論として、通常の手順を踏んだ内定辞退で損害賠償が認められることは、原則としてありません。辞退は民法627条が認める正当な権利の行使であり、権利を使っただけで賠償義務が生じるわけではないからです。
例外として賠償が問題になりうるのは、辞退の仕方が著しく信義に反すると評価される場面に限られます。たとえば入社直前に連絡もなく一方的に来なくなる、研修に参加して企業に費用を出させた直後に突然辞退する、といった極端なケースです。逆に言えば、早めに連絡し誠実に対応していれば、この例外には当たりません。
ここで誤解しやすいのが、前述の労働基準法16条が禁じているのは「辞退したら○万円」と賠償額をあらかじめ決めておくこと(賠償予定)だという点です。悪質なバックレなどで企業に現実の損害が生じた場合に、その実損害を後から請求すること自体まで、一律に禁止しているわけではありません。とはいえ内定辞退で実損害の賠償が認められるのは前述のとおり極めて限定的で、だからこそ、賠償リスクを実際に消すのは条文よりも「固まったら早く誠実に連絡する」という対応そのものです。
| ケース | 損害賠償 |
|---|---|
| 入社日の前に、電話・メールで辞退を伝えた | 原則なし(正当な権利行使) |
| 承諾書に「辞退したら違約金」とあった | その条項自体が無効(労基法16条) |
| 連絡せず入社日に来ない(音信不通) | 信義則違反で問題になりうる |
| 研修参加・費用負担の直後に突然辞退 | 態様によっては問題になりうる |
「賠償を請求すると言われた」「承諾書を盾に脅された」といった具体的な不安は、別記事で対処法まで掘り下げています。

内定承諾後に辞退すると怒られる?|企業の反応・損害賠償・違約金の実際
内定承諾後に辞退すると怒られる・損害賠償されるのが怖い人へ。採用担当者の反応の実際、損害賠償や研修費の返還が原則認められないこと、強引な引き止め(オワハラ)への対処法を、労働基準法16条や判例を根拠に解説します。
記事を読む内定承諾書に法的拘束力はある?
「承諾書に署名したのだから守らなければ」と感じる人は多いですが、内定承諾書そのものに、辞退を封じるほどの拘束力はありません。承諾書は入社の意思を確認するための書面であって、署名によって退職・辞退の自由(民法627条)が消えるわけではないからです。
前述のとおり、承諾書に違約金やペナルティの条項があってもその部分は無効です。承諾書という書面が持つ意味と効力の範囲については、次の記事で詳しく整理しています。

内定承諾書の法的効力|提出するとどうなる?拘束力と誓約事項
内定承諾書を提出すると法的にどうなるかを解説。内定で労働契約は成立するのか、誓約事項や身元保証はどこまで有効か、提出後の拘束力はどの程度かを、最高裁判例・民法・労働基準法の一次情報をもとに中立的にまとめました。
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コラム著者・編集者
TEMPLEX編集チーム
TEMPLEX編集チームは、ビジネス文書の作成・管理に精通した実務経験者と技術ライターで構成されています。送付状・請求書・見積書をはじめとする各種ビジネス書類のフォーマットや書き方のノウハウを、わかりやすく丁寧にお届けします。「Office不要で誰でもすぐ使える」をコンセプトに、忙しいビジネスパーソンの書類作成をサポートします。







