内定承諾後に辞退すると怒られる?|企業の反応・損害賠償・違約金の実際

「怒られるかも」「賠償されるかも」が怖くて言い出せない人へ
内定承諾書を出した後で気持ちが変わった。でも辞退を伝えたら担当者に怒鳴られるのではないか、損害賠償や違約金を請求されるのではないか——そう考えると電話のボタンが押せない、という人は少なくありません。
先に結論をお伝えします。内定承諾後でも辞退は法律で認められており、損害賠償や違約金を取られるケースは極めて稀です。研修費の返還を求められても、原則として応じる義務はありません。怒られるかどうかは相手の担当者次第ですが、辞退できる権利そのものは揺らぎません。ここでは、企業側の反応の実際と、賠償・違約金の根拠、そして強引な引き止めへの対処を順に確認します。
辞退してよいかどうかの全体像や、いつまでに伝えるべきかは、次の記事にまとめています。この記事は「怒られる・賠償される」という不安をほどくことに絞ります。

内定承諾書を出した後でも辞退できる?|可否・進め方・損害賠償の有無
内定承諾書を提出した後でも辞退は可能です。民法627条・労働基準法16条・採用内定の判例を根拠に、入社承諾書を出した後の辞退の可否、連絡から退職までの進め方、損害賠償が請求されるかの目安を整理しました。
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企業の反応の実際(怒る人もいるが、それは相手側の問題)
実際のところ、反応は会社や担当者によって大きく分かれます。多くの企業は「残念です」と受け止めて淡々と手続きを進めますが、ごく一部に強い言葉を返してくる担当者がいるのも事実です。ただ大切なのは、怒られるとしても、それは辞退が悪いからではなく、相手の感情の出し方の問題だという点です。
担当者が感情的になる主な理由は、入社人数を見込んで進めていた配属・教育の計画が崩れることへの困惑や、築いてきた関係が途切れたことへの失望です。気持ちは理解できますが、それは会社側の事情であって、あなたが法的に許された権利を行使したこと自体を責められる筋合いはありません。
- 「残念だが分かりました」と冷静に受け止める(最も多い)
- 理由を簡単に尋ねられる(答えられる範囲で構わない)
- 強めの引き止めや、ややきつい言い方をされる(一部)
- 研修費・交通費の返還をほのめかされる(後述のとおり原則応じる義務なし)
新卒採用は人数分の準備をしているため直前辞退の影響が大きく、転職市場では一定数の辞退が前提で動いているため比較的淡々と処理されやすい傾向があります。いずれにせよ、早く・誠実に伝えるほど相手も冷静に対応しやすくなります。
損害賠償は原則認められない(判例で確認されている)
「採用にお金がかかっているのだから賠償しろ」と言われても、ほとんどの場合は応じる必要がありません。内定承諾後の関係は始期付・解約権留保付の労働契約と整理され、民法627条1項により、いつでも解約を申し入れられ、申入れから2週間の経過で契約は終了します(民法第627条)。辞退は法律が認める権利の行使であって、行使したこと自体は違法ではありません。
「入社まであと数日しかない」場合も同じです。申入れから契約終了まで2週間かかる関係で、入社日まで2週間を切っていると形式上は入社日を過ぎてから契約が終了しますが、企業が労働を強制することはできません(労働基準法5条は、本人の意思に反して労働を強制することを禁じています)。実務上は、入社日以降を欠勤扱いにするか、企業と合意のうえで即時に契約を解約(合意解約)する形で処理されるのが通常で、出社しないからといって無理やり働かされることはありません。
裁判でも同じ立場が取られています。X社事件(東京地裁 平成24年12月28日判決)では、内定辞退で賠償責任が生じるのは「著しく信義則上の義務に違反する態様」で行われた場合に限ると判断されました。この事件では、研修に参加していた途中で辞退したケースでしたが、それでも「著しく信義則に反する辞退とはいえない」として企業の請求は認められませんでした。通常の辞退で賠償が認められるハードルは、それほど高いということです。
仮に例外的に賠償が認められる場面があっても、その範囲は新たな採用活動にかかった費用程度に限られ、会社が主張する損害がそのまま全額認められるわけではありません。「内定者がいたら得られたはずの利益」のような曖昧な損害は対象になりません。
「著しく信義則に反する」とされうるのは、たとえば入社直前まで辞退する素振りを見せず、研修に参加して会社に具体的な出費をさせた直後に、理由もなく突然連絡を絶つ——といった極端な振る舞いです。辞退の意思が固まった時点で速やかに、きちんと連絡を入れていれば、まず問題になりません。
違約金・研修費の返還条項は原則無効(労働基準法16条)
内定承諾書に「辞退したら違約金○○円」「研修費は全額返還」といった条項があっても、過度に恐れる必要はありません。労働基準法16条は、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額をあらかじめ決めておくこと(賠償予定)を禁止しているからです(労働基準法第16条(賠償予定の禁止)/厚生労働省)。これに反する違約金・賠償予定の条項は無効です。
研修費・教育費の返還条項も、実態が「辞めたら払え」という足止め策であれば、同じく16条に反して無効と判断されるのが原則です。費用負担を理由に辞退を思いとどまらせること自体が、退職・辞退の自由を制約するものとして問題視されます。入社前の内定者に課された研修費の返還も、応じる義務はないのが通常です。
- あらかじめ金額を決める条項は無効:「辞退したら違約金○○円」「研修費を一律返還」は労基法16条で禁止される賠償予定にあたり、効力を持たない。
- 現実に生じた損害の請求まで禁じてはいない:16条が封じるのは“事前の金額設定”。実際に発生した損害を後から請求すること自体は理論上ありうるが、前述のとおり辞退で認められる場面は極めて限定的。
- 会社の指示で受けた研修の費用は会社の経費:業務命令や業務の一環として参加した研修の費用は、本来は会社が負担すべき営業経費とされ、事後の実費請求であっても内定者に負担させることは原則認められない。会社の指示による研修であれば、その費用に応じる必要はない。
研修費の返還を断る根拠は、この労基法16条に尽きます。返還を求められても、まずは冷静に「労基法16条があるため応じられない」と伝えれば十分です。なお、返還の示唆を交えて辞退を思いとどまらせようとする引き止めは、厚生労働省がやめるよう求めるオワハラ(内定承諾書の早期提出の強要や、辞退申出後の繰り返しの引き留めなど)に重なる場合があります(厚生労働省「就職活動中の学生等に対するハラスメント」リーフレット)。
強引な引き止め・オワハラへの対処
辞退を伝えても受け入れてもらえない、他社の選考をやめるよう迫られる、誓約書を盾に脅される——こうした強引な引き止めはオワハラ(就活終われハラスメント)と呼ばれ、厚生労働省が「学生の職業選択の自由を侵害する行為」として明確に企業へやめるよう求めています(厚生労働省・都道府県労働局・ハローワークの注意喚起)。場合によっては不法行為や、脅迫・強要にあたる可能性もあります。引き止めに正当性はありません。
強く出られたときは、押し問答に付き合わず、次の手順で淡々と進めるのが安全です。
- 辞退の意思を、結論からはっきり伝える(理由を細かく説明する義務はない)。まずは電話で伝えるのがマナーとされるが、電話が怖い・相手が感情的になると分かっているなら、最初からメールで証拠を残す形で伝えてもよい(辞退の意思が相手に届けば法的な効力は電話と変わらない)
- 口頭でうやむやにされそうなら、メールなど文章でも辞退の意思を残す
- 「2週間の経過で契約は終了する」点を踏まえ、辞退日を明確に伝える
- 脅し・長時間の拘束・繰り返しの呼び出しがあれば、やり取りを記録しておく
- 対応が改善しなければ、新卒なら学校のキャリアセンターや労働局・ハローワークの相談窓口、転職なら各都道府県の総合労働相談コーナーに相談する
辞退の理由は「一身上の都合」「他社で内定をいただいた」程度で構いません。相手を納得させる必要はなく、意思を明確に示せれば辞退は成立します。引き止めの言葉に応じて理由を増やすほど議論が長引くので、結論を繰り返すのが得策です。
こう言われたら、こう返す(受け答え例)
強い言い方をされると頭が真っ白になりがちです。あらかじめ返し方を決めておくと落ち着いて対応できます。受け答えのコツは「①ひと言わびる ②でも意思は変えない ③議論しない」の3つです。
| 強く言われたこと | 落ち着いた受け答え例 |
|---|---|
| 「損害賠償を請求する」「訴える」と言われた | 「ご迷惑をおかけし申し訳ありません。ただ、辞退の意思は変わりません。ご請求がある場合は書面でお願いできますか」。実際に賠償が認められるのは極めて稀で、口頭の脅しに動じる必要はありません |
| 「研修費・採用費用を返せ」と言われた | 「業務として受けた研修の費用は会社のご負担と理解しております。返金には応じかねます」と、原則を踏まえて穏やかに伝える |
| 「他社の選考をやめろ」と迫られた | 「進路は自分で決めたいと考えています。ご縁に感謝していますが、お受けできません」。相手の要求には乗らず、辞退の意思だけを返す |
| 「考え直せ」「今日は帰さない」と長く引き止められた | 「お時間をいただき恐縮ですが、結論は変わりません。本日はこれで失礼します」と区切る。長時間の拘束には応じなくてかまいません |
| 感情的に強い口調で責められた | 言い返さず「ご気分を害してしまい申し訳ありません。それでも辞退させてください」と短く繰り返す。相手の感情に巻き込まれないことが大切です |
その場で言い負かす必要はありません。感情的な相手とは長く話さず、短い言葉を繰り返して切り上げてよいです。やり取りは録音やメモで残し、脅しが続くようなら前述の相談窓口に頼ってください。
不安をほどくためのまとめ
怖さの正体は「怒られる」と「賠償される」の二つですが、前者は相手の態度の問題にすぎず、後者は法律と判例によってほぼ起こらないことが分かります。最後に要点を整理します。
| 不安 | 実際 | 根拠 |
|---|---|---|
| 怒られるのが怖い | 怒る担当者は一部。辞退の権利は揺らがない | 民法627条1項(解約の自由) |
| 損害賠償されそう | 原則認められない。例外でも範囲は採用費用程度 | X社事件 東京地裁 平成24年12月28日 |
| 違約金・研修費を取られそう | 違約金・返還条項は原則無効。応じる義務なし | 労働基準法16条(賠償予定の禁止) |
| 辞退させてもらえない | 強引な引き止めはオワハラ。相談窓口がある | 厚労省のオワハラ防止の注意喚起 |
辞退できるかどうかの基本や、実際にどれくらいの人が承諾後に辞退しているのかが気になる場合は、次の記事もあわせて確認してください。承諾後の辞退は決して珍しいことではありません。
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コラム著者・編集者
TEMPLEX編集チーム
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