誓約書を書かされた|無効・取消しにできるケースと個人の対処法

誓約書を書かされた|無効・取消しにできるケースと個人の対処法

書かされた誓約書は無効にできる?まず結論

脅されたり、相手に取り囲まれて断れない状況で署名させられたのなら、誓約書の取消しや無効を主張できる可能性があります。ただし出発点として知っておくべきなのは、自分で署名した誓約書は、原則として有効に扱われるということです。

本人としては「無理やり書かされた」と感じていても、法律上は署名=本人の意思で約束したものと扱われるのが原則です。裁判でも、本人の署名がある書面は本人の意思で作成されたと推定されます(民事訴訟法228条4項)。「書かされたから無効」という主張が通るのは、これから説明する法律上の取消し・無効の原因に当てはまる場合に限られます

そして取消しには期限があります(後述のとおり追認できる時から5年)。証拠も時間とともに消えていくため、今日からできることは「経緯の記録」と「証拠の確保」です。

まだ署名しておらず、これから会社に書くよう求められている段階なら、先に断り方と現実的なリスクを確認してください。

会社の誓約書を書きたくない|拒否できる?断り方と現実的なリスク
誓約書・同意書

会社の誓約書を書きたくない|拒否できる?断り方と現実的なリスク

会社から誓約書を求められたが書きたくない方へ。署名を法的に強制されない根拠と、入社時・在職中・退職時それぞれで拒否した場合の現実的なリスク、全部拒否より有利な「問題条項の修正交渉・部分署名」の進め方、保留・確認の伝え方文例をまとめました。

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無効・取消しを主張できる7つのケース

民法は、自由な意思に基づかない約束や、内容に問題のある約束について、取消し・無効のルールを置いています(e-Gov法令検索(民法))。書かされた誓約書に当てはまる可能性があるのは、次の7つです。

ケース根拠効果
強迫(脅されて署名した)民法96条取り消せる
詐欺(だまされて署名した)民法96条取り消せる
錯誤(重要な勘違いで署名した)民法95条取り消せる
公序良俗違反(内容が法外)民法90条無効
未成年者が親の同意なく署名した民法5条取り消せる
事業者に困惑させられて契約した(不退去・退去妨害など)消費者契約法4条取り消せる
法令に違反する条項労働基準法16条などその条項が無効
書かされた誓約書で主張できる取消し・無効の原因

強迫——「書くまで帰さない」「ばらすぞ」と脅された

強迫とは、害悪を告げて相手を怖がらせ、それによって意思表示をさせることです。「書くまで帰さない」と長時間その場から出られなかった、「家族や職場にばらす」と告げられた、複数人に取り囲まれて拒否できる雰囲気ではなかった——こうした状況での署名は、民法96条1項により取り消せます。実際に殴られた・脅迫めいた文言があったという場合だけでなく、心理的に署名以外の選択肢を奪われた状況も強迫にあたりえます。

詐欺・錯誤——だまされた・事実と違う前提で署名した

「ただの形式的な書類だから」と虚偽の説明を受けて、実際には高額の支払いを約束する誓約書に署名させられた——このようにだまされて署名した場合も民法96条1項で取り消せます。また、だます意図まではなくても、重要な点について事実と違う認識のまま署名した場合は、錯誤として取消しを主張できることがあります(民法95条)。たとえば、実際には自分に賠償義務がないのに「ある」と思い込まされて支払いを誓約したケースです。なお勘違いした事情が前提になっていたことが相手にも示されていた、といった条件があるため、錯誤の主張は専門家に整理してもらうのが確実です。

公序良俗違反——金額や内容が法外

民法90条は「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」と定めています。到底支払えない法外な違約金、「今後一切誰とも交際しない」のように自由を過度に奪う約束、土下座や謝罪行脚を強いるような人格を否定する内容は、署名していてもその条項(場合によっては全体)が無効です。取消しと違い、無効の主張に期限はありません

未成年——18歳未満が親の同意なく署名した

18歳未満の未成年者が法定代理人(通常は親権者)の同意なく行った法律行為は、民法5条2項により取り消せます。本人だけでなく親権者からも取り消せます。なお成年年齢は2022年4月から18歳になっているため、18歳・19歳の方はこのルールを使えません。

消費者契約——エステ・悪質商法など事業者に書かされた

エステや情報商材、悪質商法のように相手が事業者で、契約や支払いの約束をさせられた場合は、民法に加えて消費者契約法が使えます。「帰りたい」と言ったのに引き止められた(退去妨害)、「帰ってほしい」と頼んだのに居座られた(不退去)など、事業者に困惑させられて結んだ契約は、消費者契約法4条3項により取り消せます。不安をあおる告知やデート商法といった類型も対象です。また、解約時の高額な違約金・キャンセル料は、事業者に生じる平均的な損害を超える部分が無効になります(同法9条)。ただし、取消しの期間は民法より短く設定されています(後述)。

「無効」と「取消し」の違い

無効は最初から効力がなく、いつでも誰でも主張できます。一方、取消しは取り消すまでは有効で、取り消して初めて遡って無効になります(民法121条)。つまり強迫・詐欺・錯誤のケースでは、黙っていても誓約書は失効しません。後述する期限内に、自分から取消しの意思表示をする必要があります。

配偶者に書かされた誓約書について、「夫婦間の契約は婚姻中いつでも取り消せる」と解説する記事が今も残っていますが、その根拠だった民法754条は2026年4月1日施行の改正で削除済みです。夫婦間で書かされた場合も、ここで説明した強迫・公序良俗違反などの一般ルールで判断されます。

そもそも誓約書にどこまでの拘束力があるのか、どんな条項が無効になりやすいのかは、次の記事で詳しく解説しています。

誓約書の法的効力|片方の署名だけで有効?無効になるケースと限界
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誓約書の法的効力|片方の署名だけで有効?無効になるケースと限界

誓約書は差出人だけが署名する書類ですが、約束としての拘束力と民事訴訟法228条4項による証拠力があります。無効・取消しになるケース、誓約書だけでは強制執行できない限界まで、書かせる側・書かされる側の両方の視点で解説します。

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取消しには期限がある|追認できる時から5年・行為から20年

強迫・詐欺・錯誤・未成年を理由とする取消権には期限があります。「追認をすることができる時」から5年、署名した時から20年のどちらかが過ぎると、取消権は消滅します(民法126条)。なお、前述の消費者契約法による取消権はこれとは別に定められており、原則として追認できる時から1年・契約締結から5年で消滅します(同法7条)。民法より大幅に短いため、事業者相手のケースほど早く動く必要があります。

「追認をすることができる時」とは、取消しの原因がなくなった時のことです。強迫なら脅されている状態を脱した時、詐欺・錯誤なら事実と違うと気づいた時から5年を数えます。相手との関係が続いていて怖くて言い出せない期間は、まだ「追認できる時」が来ていないと評価される余地がありますが、その立証は簡単ではありません。

また、期限内であっても時間が経つほど録音・メッセージ・目撃者の記憶といった証拠は失われ、「なぜすぐに異議を言わなかったのか」という反論も受けやすくなります。動くなら早いほうが圧倒的に有利です。

注意したいのが「法定追認」(民法125条)です。脅されている状態を脱した後に、誓約書に書かれたお金を支払うなど義務の履行をすると、約束を認めた(追認した)とみなされて取り消せなくなるおそれがあります。全額ではなく一部だけ支払った場合も「一部の履行」として法定追認の対象になりえます。さらに、「少し待ってください」と支払いの猶予を求めるだけでも、約束を認めたと評価されるおそれがあります。取消しを考えているなら、支払いや支払いについての返答をする前に専門家に相談してください。

実際の動き方|記録・証拠・取消しの意思表示

「家族にばらすぞ」と脅して署名や金銭を要求する、書くまで帰さない——これらは強要罪(刑法223条)・恐喝罪(刑法249条)・監禁罪(刑法220条)にあたりうる、民事の取消し以前に刑事事件の領域です。身の危険を感じる脅しや、帰れない状態での強要があった場合は、相手に連絡する前にまず警察へ相談してください。今まさに危険が迫っているときは110番、急を要しない相談は警察相談専用電話「#9110」で受け付けています。

強迫や詐欺は「あったこと」を主張する側が立証する必要があります。つまり、取消しの成否は証拠で決まります。次の順序で動いてください。

  1. 誓約書の控え・写真を確保する(手元になければ、覚えている内容を書き出しておく)
  2. 書かされた経緯を時系列で記録する(記憶が新しいうちに。下のメモの型を使ってください)
  3. 証拠を集める(やり取りの録音、LINE・メールの保存、その場にいた人の連絡先)
  4. 取消しの意思表示を内容証明郵便で相手に送る(取消しは相手への意思表示で行います=民法123条)
  5. 相手が支払いを求め続ける・訴えると言ってくる場合は、証拠一式を持って弁護士へ
経緯記録メモの型(コピーして埋めるだけ)
誓約書を書かされた経緯の記録 記録作成日: 署名した日時: 場所: その場にいた人: 署名を求めてきた人: 言われた言葉(できるだけそのまま): 署名までの状況(かかった時間・断ろうとしたか・断れなかった理由): 誓約書の内容(覚えている範囲で): 署名後のやり取り: 証拠になりそうなもの(録音・LINE・メール・目撃者など):

なお、取消し原因の立証が難しそうな場合でも、相手が合意すれば誓約書を白紙に戻す・内容を見直すことはいつでもできます。話し合いができる関係なら、撤回や書き直しの合意を打診するのも現実的な解決策です。双方が納得できる内容で作り直す場合は、誓約書テンプレートで適正な形式の書面を無料で作成できます。

TEMPLEXの誓約書テンプレート
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内容証明で送る取消通知の文例

取消しの意思表示は口頭でも法律上は有効ですが、「言った・言わない」の争いになるため、内容証明郵便(配達証明付き)で送るのが定石です。内容証明は、いつ・誰が・どんな内容の文書を送ったかを日本郵便が証明する制度で、謄本が郵便局に5年間保管されます。配達証明を付ければ、相手に届いた日付も証明されます(日本郵便「内容証明」)。

取消通知書の文例(強迫を理由とする場合)
通知書 私は、令和○年○月○日、貴殿の求めに応じ、「誓約書」と題する書面(以下「本誓約書」といいます)に署名しました。 しかし、上記署名は、同日、○○において、貴殿が「○○○○」などと申し向けて私を畏怖させたことによりなされたものであり、私の自由な意思に基づくものではありません。 よって、私は、貴殿に対し、民法第96条第1項に基づき、本誓約書による私の意思表示を取り消すことを本書面をもって通知いたします。 令和○年○月○日 (通知人) 住所 ○○県○○市○○町○丁目○番○号 氏名 ○○ ○○ (被通知人) 住所 ○○県○○市○○町○丁目○番○号 ○○ ○○ 殿

だまされて署名した場合は、理由の段落を「貴殿が『○○○○』という事実と異なる説明を行い、私を誤信させたことによりなされたもの」に差し替えてください(根拠条文は同じ民法96条1項)。重要な勘違いで署名した場合は「○○という事実を前提に署名しましたが、当該前提は事実と異なっていました」とし、根拠条文を民法95条1項に変更します。

「」内には、言われた言葉をできるだけ具体的に書きます。郵便局の窓口に行かなくても、e内容証明(電子内容証明)ならWordファイルをアップロードして24時間オンラインで差し出せます。

会社に書かされた場合の特有ポイント

ミスや事故の後、退職を申し出た場面などで会社から誓約書を書かされた場合は、ここまでの民法のルールに加えて、労働法の保護が働きます。

「辞めたら違約金」「ミスしたら○万円」は労基法16条違反

労働基準法16条は、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額をあらかじめ決めておくことを禁止しています。「年度途中で退職したら違約金○万円を支払う」「ミスをしたら一律○万円弁償する」といった条項は、署名していても労基法16条違反で無効です。ただし、実際に発生した損害について会社が賠償を求めること自体は禁止されていません。禁止されるのは「金額を前もって決めておくこと」です。

解雇や懲戒をちらつかせて署名を迫られた場合

「署名しなければ解雇する」「懲戒処分にする」と告げられて署名させられた場合、状況によっては強迫として取消しを主張する余地があります。面談の日時・出席者・発言内容を記録し、可能なら次回以降のやり取りを録音してください。会社相手の場合も、動き方の基本(記録→証拠→意思表示)は同じです。

退職時の誓約書にサインしてしまい、競業避止義務や損害賠償条項が不安な方は、退職時特有の論点を次の記事で確認してください。

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相談先|法テラス・総合労働相談コーナー・弁護士

取消し・無効の主張は法的な評価と立証が絡むため、一人で相手と交渉するより、早めに専門家を入れたほうが結果的に早く解決します。費用が心配でも、無料で使える窓口があります。

  • 法テラス:収入・資産が一定基準以下なら、同じ問題について3回まで弁護士・司法書士に無料相談できます(民事法律扶助)。個人間のトラブル全般に使えます(法テラス公式サイト)。
  • 総合労働相談コーナー:会社に書かされた場合の窓口。全国の労働局・労働基準監督署内などにあり、無料・予約不要で相談できます(厚生労働省の案内ページ)。
  • 弁護士への直接相談:高額の請求を受けている・訴訟をちらつかせられている場合は、民事・労働問題を扱う弁護士に早めに依頼を。各地の弁護士会の法律相談センターも利用できます。

相談には、誓約書の控え(または内容のメモ)と、先ほどの経緯記録メモ・証拠を持参するとスムーズです。取消しの期限は追認できる時から5年。「もう署名してしまったから」と諦める前に、主張できる材料がないか一度確認してみてください。

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コラム著者・編集者

TEMPLEX編集チーム

TEMPLEX編集チームは、ビジネス文書の作成・管理に精通した実務経験者と技術ライターで構成されています。送付状・請求書・見積書をはじめとする各種ビジネス書類のフォーマットや書き方のノウハウを、わかりやすく丁寧にお届けします。「Office不要で誰でもすぐ使える」をコンセプトに、忙しいビジネスパーソンの書類作成をサポートします。

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