退職時の誓約書の断り方|拒否できる?しつこい場合の対応と文例

退職時の誓約書は断れる?【結論:署名する法的義務はない】
退職の手続きを進めるなかで、会社から「この誓約書にサインしてください」と書面を渡され、戸惑っている方は少なくありません。結論から言うと、退職時の誓約書に署名する法的義務はありません。誓約書は会社と退職者の合意で成立する書面であり、会社が署名を強制することはできません。

署名を断っても、退職そのものには影響しません。期間の定めのない雇用契約であれば、退職の申入れから2週間が経過すれば雇用契約は終了します(民法627条1項)。「サインしないと退職させない」という理屈は通りません。
ただし、すべての条項を突っぱねるのが最善とは限りません。条項によっては応じても実害がほとんどなく、円満に手続きを終えたほうが得な場合もあります。まずは何が書かれている書類なのかを確認してから、断り方を決めましょう。退職時の誓約書の典型的な条項は次の記事で確認できます。

退職誓約書の書き方|秘密保持・競業避止・貸与品返却の例文と拒否する場合の対応
退職時に提出する誓約書の書き方を、秘密保持・競業避止・貸与品返却・個人情報の取扱いなど必須項目別に例文付きで解説。競業避止条項の合理性チェック(4要素)、拒否する場合の選択肢、不正競争防止法との関係まで実務目線でまとめました。
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断る前に条項を仕分けする|応じてよい条項・要注意の条項
退職時の誓約書には、貸与品の返却から競業避止まで複数の条項がまとめて並んでいるのが普通です。全条項が危険なわけではなく、警戒すべきは一部です。条項単位で仕分けると、どこを断ればよいかが見えてきます。
| 条項 | 署名した場合の不利益 | 対応の目安 |
|---|---|---|
| 貸与品の返却・データ削除 | ほぼなし(誓約書がなくても当然の義務) | 応じてよい |
| 業務の引き継ぎ | ほぼなし | 応じてよい |
| 秘密保持 | 小さい(対象が特定されていれば) | 範囲を確認したうえで応じる余地が大きい |
| 競業避止(同業他社への転職制限) | 大きい(転職の選択肢を直接制限) | 安易に署名しない・修正を交渉 |
| 損害賠償・違約金 | 大きい(金銭請求の根拠にされうる) | 安易に署名しない・修正を交渉 |
貸与品の返却や引き継ぎは、誓約書に書かれていなくても果たすべきことなので、署名しても新たな不利益はほぼ生じません。秘密保持も、対象が「在職中に知り得た顧客情報・技術情報」のように特定されていれば、応じても実害が少ないことが多い条項です。不正競争防止法上の「営業秘密」にあたる情報は、誓約書がなくてももともと法律で保護されているためです。
一方、競業避止条項と損害賠償条項は、署名前に立ち止まるべき条項です。競業避止は退職後の転職先を直接制限し、損害賠償条項は後から金銭請求の根拠として持ち出される可能性があります。競業避止条項の有効性がどう判断されるかは、次の記事で詳しく解説しています。

同業他社への転職禁止の誓約書は有効?競業避止誓約書にサインしても転職できるか
「同業他社へ転職しない」という誓約書(競業避止誓約書)があっても、転職が一律に禁止されるわけではありません。合理性のない条項は職業選択の自由との関係で無効。有効・無効を分ける判断基準、転職前のチェックリスト、違反した場合のリスクまでまとめました。
記事を読む断り方の文例|全部断る・部分署名を提案・持ち帰る
断るときは、感情的に対立せず、「どの条項に応じられないのか」を具体的に伝えるのがコツです。理由を示さずに全部を拒むと話がこじれやすくなります。状況別の文例を用意したので、口頭でもメールでもそのまま使ってください。
会社が修正版を用意してくれないときは、紙の誓約書の上で、応じられない条項に二重線を引き、訂正印を押したうえで署名・提出する方法もあります。訂正印には署名に押すものと同じ印鑑を使います。消した条項に同意していないことが書面に残り、会社がその誓約書を受け取れば、合意は修正後の内容で成立します。それも受け取ってもらえない場合は、秘密保持や貸与品の返却など応じられる条項だけをまとめた書面を自分で作成して差し入れることもできます。
その場で署名を求められても、持ち帰って検討するのは正当な対応です。「全員に書いてもらっている」と言われても、署名するかどうかは一人ひとりの合意の問題です。
しつこく求められる場合|退職金・離職票を盾にされたら
一度断っても、面談のたびに署名を迫られる、人事から繰り返し連絡が来る、というケースがあります。しつこい場合は口頭のやり取りを続けず、書面やメールで回答して記録を残すのが有効です。回答が今後も変わらないことを明確に示すと、それ以上は深追いされないことがほとんどです。
「退職金を支払わない」と言われたら
退職金規程(就業規則)で支給条件が定められている退職金は賃金にあたり、誓約書への署名は通常、支給条件に含まれていません。「サインしないなら退職金は出さない」という扱いは認められない可能性が高いものです。裁判例でも、退職金の不支給・減額が認められるのは、規程に不支給・減額の定めがあり、かつ勤続の功労を打ち消すほどの著しい背信行為があった場合に限られる傾向にあります。
「離職票を渡さない」と言われたら
離職票の交付手続きは会社の義務です。正当な理由なく離職票の交付を拒むことは雇用保険法違反で、同法83条には6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金という罰則があります。会社は退職日の翌々日から10日以内に雇用保険の資格喪失手続きを行う必要があり、「誓約書が未提出だから」は拒否の正当な理由になりません。手続きが進まないときは、ハローワークに「会社が離職票を交付してくれない」と相談すれば、ハローワークから会社へ催促してもらえます。
源泉徴収票も同じです。会社には所得税法226条により退職後1か月以内に交付する義務があります。交付されない場合は、税務署に「源泉徴収票不交付の届出書」を提出すると、税務署から会社へ指導が入ります。書類を人質にした駆け引きに応じる必要はありません。
「署名するまで帰さない」など強要に近い形でやむを得ずサインしてしまった場合は、強迫(民法96条1項)を理由とする取消しを主張できる可能性があります。悪質な場合は、都道府県労働局の総合労働相談コーナーや弁護士に相談してください。
断った後はどうなる?|会社は強制できない
署名を断っても、会社にできることは基本的にありません。退職手続きは誓約書と切り離して進みます。退職日が来れば雇用契約は終了し、離職票や源泉徴収票も前述のとおり会社の義務として交付されます。拒否を理由とした嫌がらせや不利益な取り扱いは、それ自体が違法と評価されうる行為です。
誓約書を断ったあと、退職日まで職場で顔を合わせるのが気まずいと感じる方もいるでしょう。その場合は、引き継ぎを早めに終わらせて有給消化に入り、出社する日数そのものを減らすのも一つの方法です。
ただし、誓約書を断れば何でも自由になるわけではありません。不正競争防止法上の「営業秘密」は、誓約書がなくても法律で保護されています。顧客名簿や設計データを持ち出せば、誓約書の有無にかかわらず損害賠償・差止め、悪質な場合は刑事罰の対象です。また、入社時に提出した誓約書や就業規則で退職後の義務を定めている場合、その効力は残ります。「誓約書を断ること」と「ルールを守って辞めること」は別物として考えてください。
なお、退職の意思表示は口頭で済ませず、書面で残しておくとトラブル防止になります。退職届は TEMPLEX の退職届テンプレート を使えば、フォームに入力するだけで PDF として作成・印刷できます。
すでに署名してしまった誓約書が不安な方は、条項別の効力と今からできることを次の記事で確認してください。

退職時の誓約書にサインしてしまった|効力はどうなる?今からできること
退職時の誓約書にサインしてしまっても、全条項がそのまま有効とは限りません。秘密保持・競業避止・損害賠償の条項別の効力、強迫や錯誤による取消しの余地、同業他社へ転職したい場合の判断手順、警告書が届いたときの対応まで解説します。
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コラム著者・編集者
TEMPLEX編集チーム
TEMPLEX編集チームは、ビジネス文書の作成・管理に精通した実務経験者と技術ライターで構成されています。送付状・請求書・見積書をはじめとする各種ビジネス書類のフォーマットや書き方のノウハウを、わかりやすく丁寧にお届けします。「Office不要で誰でもすぐ使える」をコンセプトに、忙しいビジネスパーソンの書類作成をサポートします。






