「領収書を出せない」と言われたら|もらえない場合の代替手段と対処法

領収書の発行は法律上の義務があるのか
結論から言えば、現金で代金を受け取った側には領収書(受取証書)を発行する義務があります。根拠は民法第486条です。同条は「弁済をする者は、弁済と引換えに、弁済を受領する者に対して受取証書の交付を請求することができる」と定めています。
判例上、代金の支払いと領収書の交付は同時履行の関係にあります(民法533条)。つまり、お金を払う側が「領収書をください」と求めたのに相手が拒否した場合、支払い自体を拒否できる法的根拠があるということです。
ただし、民法486条は任意規定であるため、契約や取引条件で「領収書は発行しない」と事前に合意している場合は、その合意が優先されます。また、クレジットカード決済のように直接の金銭授受がない場合は、そもそも同条の適用外になります。
2021年(令和3年)施行のデジタル社会形成整備法による民法改正で、紙の受取証書に代えて電磁的記録(電子領収書)の提供を請求できる規定が新設されました(民法486条2項)。メールやPDFでの交付を求めることも法的に認められています。
領収書を断られる主なケース
実務上、「領収書は出せません」と言われる場面にはパターンがあります。まず断られる理由を理解しておくと、代替手段を選びやすくなります。
クレジットカード決済
クレジットカード決済は信用取引(後払い)であり、決済時点で店舗は現金を受け取っていないため、民法486条の「弁済と引換え」に該当しません。このため、店舗には領収書の発行義務がありません。ただし、サービスとして発行してくれる店も多くあります。
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銀行振込
銀行振込は金銭の授受が成立しているため、振込先には領収書の発行義務があります。ただし、実務上は振込明細書が支払いの証拠として税務上認められるため、「振込明細で代用してください」と言われるケースが多いのが実態です。
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ネット通販(Amazon・楽天など)
多くのECサイトでは紙の領収書を同梱せず、購入履歴から領収書をダウンロードする仕組みになっています。注文履歴画面から「領収書/購入明細書」を印刷できるサイトがほとんどですので、まずマイページを確認しましょう。
自動販売機・券売機
自動販売機での購入は領収書の発行手段がありません。この場合は後述する出金伝票での対応が基本です。
電車・バスなどの交通機関
ICカード(Suica・PASMOなど)で乗車した場合、改札で領収書は発行されません。駅の券売機や窓口でICカードの利用履歴を印刷できるので、それを証憑として使います。
割り勘・個人間取引
飲食店での割り勘は、支払いの一部しか証憑に残らないのが難点です。店舗に「参加人数分の金額で領収書を分けてほしい」と依頼すれば対応してもらえることがあります。難しい場合は、レシートのコピーと出金伝票を組み合わせます。
ご祝儀・香典・お見舞金
慶弔費は性質上、相手に領収書を求めること自体がマナー違反になります。出金伝票に加えて、招待状・会葬礼状・案内状などを一緒に保管しておくと経費精算の裏付けになります。なお、ご祝儀・香典・お見舞金などの慶弔費は対価性がないため消費税の不課税取引に該当し、インボイスの保存は不要です(国税庁タックスアンサーNo.6463)。
ケース別の代替証憑と対処法
領収書がもらえない場合でも、支払いの事実を客観的に証明できる書類があれば経費として認められます。ケース別に使える代替証憑を整理します。
| ケース | 代替証憑 | 補足 |
|---|---|---|
| クレジットカード決済 | カード利用明細書 / 利用控え | 日付・金額・利用先が記載されていれば領収書と同等の証拠力がある |
| 銀行振込 | 振込明細書 / 振込受付書 | ATM明細やネットバンキングの取引履歴画面の印刷でもOK |
| ネット通販 | 購入確認メール / 注文履歴画面の印刷 | Amazonなら注文履歴から「領収書/購入明細書」を発行できる |
| 自動販売機 | 出金伝票 | 設置場所・購入品目・金額を記載。来客用お茶など少額経費に限定が無難 |
| 電車・バス(IC乗車) | ICカード利用履歴の印字 / 交通費精算書 | 駅の券売機で印刷可能。モバイルSuicaはアプリで利用履歴を確認 |
| タクシー | タクシーレシート / 利用明細 | 車内で領収書発行ボタンを押す。もらい忘れたらタクシー会社に連絡 |
| 割り勘 | レシートのコピー + 出金伝票 | 自分の負担額を出金伝票に記載し、レシート全体のコピーを添付 |
| ご祝儀・香典 | 出金伝票 + 招待状 / 会葬礼状 | 案内状や式典のパンフレットも証拠として保管する |
| 駐車場(コインパーキング) | 精算時のレシート / 出金伝票 | レシートが出ない駐車場は出金伝票で対応。駐車場名・時間を記載 |
代替証憑のポイントは、「いつ・誰に・いくら・何の目的で支払ったか」の4点が客観的に確認できることです。この4点さえ揃っていれば、領収書がなくても法人税・所得税の計算上は経費として認められます。
ただし消費税については注意が必要です。インボイス制度(2023年10月開始)では、適格請求書(インボイス)の保存がないと仕入税額控除を受けられないのが原則です。出金伝票などの代替証憑で法人税・所得税の経費にはできても、消費税の控除は別問題になります。ただし以下の取引は帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる特例があります。
- 3万円未満の公共交通機関(鉄道・バス・船舶)の旅客運送
- 3万円未満の自動販売機・自動サービス機からの購入
これらの特例を使う場合は、帳簿の摘要欄に「3万円未満の鉄道料金」「○○市 自販機」など特例の対象である旨を記載してください。なお、慶弔費(ご祝儀・香典など)はそもそも消費税の課税対象外(不課税取引)のため、インボイスの保存は不要です。
レシートと領収書は法律上の証拠力に差がありません。レシートのほうが品名・数量・日時などの記載が詳しいことも多く、税務調査ではむしろレシートが歓迎されるケースもあります。「レシートでは駄目」というのは社内ルールの話であり、税法上の要件ではありません。
出金伝票の書き方
領収書もレシートも手に入らない場合、出金伝票を自分で起票することで経費計上が可能になります。出金伝票は市販のものでもExcelで自作したものでも構いません。以下の4項目を漏れなく記入してください。
- 日付 ── 支払った日(伝票を書いた日ではなく実際の支払日)
- 支払先 ── 相手の名称(店名・会社名・個人名)
- 金額 ── 支払った合計金額(税込)
- 摘要(内容) ── 何を購入したか、目的は何か(できるだけ具体的に)
自販機でお茶を購入した場合
電車賃を経費精算する場合
慶弔費(ご祝儀)の場合
出金伝票だけで経費処理が通るかどうかは、会社の経費精算ルールによります。出金伝票の多用は税務調査でチェックされやすいため、できる限りレシートやカード明細など客観的な証拠を揃えたうえで、補助的に使うのが安全です。
それでも領収書が必要なときの交渉方法
社内ルールで「領収書の原本が必須」と決まっている場合など、代替証憑では通らないケースもあります。そのときは、支払先に丁寧に交渉してみましょう。民法486条を根拠に発行を求める権利があることは先述のとおりですが、いきなり法律を持ち出すより、まずは事情を説明するほうがスムーズです。
交渉のポイント
- 「会社の経費精算で領収書の原本が必要なのですが」と事情を説明する
- 「手書きの簡単なもので構いません」とハードルを下げる
- 銀行振込の場合は「振込明細に加えて領収書もいただけますか」と聞く
- PDFやメールでの電子発行でもよいなら、その旨を伝える
- それでも断られたら「請求書に『代金受領済み』と一筆入れていただけませんか」と代替案を提案する
依頼トーク例(対面)
依頼トーク例(メール)
「請求書に受領済みと記載」を依頼する場合
経費精算を通すための証拠固めチェックリスト
領収書が手に入らなくても、以下のチェックリストを満たしていれば経費精算は通りやすくなります。「証拠は複数・具体的に」が鉄則です。
- 支払日・金額・支払先・目的の4点が分かる書類が1つ以上ある
- クレジットカードの場合:利用明細書を印刷またはダウンロード済み
- 銀行振込の場合:振込明細書またはネットバンキングの取引履歴を保存済み
- ネット通販の場合:注文履歴画面のスクリーンショットまたは購入確認メールを保存済み
- 交通費の場合:ICカード利用履歴を印字、または交通費精算書を作成済み
- 自販機・慶弔費の場合:出金伝票を起票済み(日付・支払先・金額・摘要を記載)
- 慶弔費の場合:招待状・会葬礼状などの裏付け資料を出金伝票と一緒に保管済み
- 割り勘の場合:レシート全体のコピーと、自分の負担額を記載した出金伝票を用意済み
- 経費の目的(業務との関連性)を簡潔にメモしている
- 社内の経費精算ルール(領収書必須か・出金伝票で代用可か)を事前に確認済み
税務調査では、領収書の有無そのものよりも「その支出が本当に事業に必要だったか」が問われます。領収書がなくても、支払いの事実と業務上の必要性を合理的に説明できる書類を揃えておけば、経費として否認されるリスクは大幅に下がります。
紙の証憑類はスマートフォンで撮影してクラウドに保存しておくと紛失リスクを減らせます。スキャナ保存を行う場合は電子帳簿保存法の要件(解像度200dpi以上・タイムスタンプ付与等)を満たす必要があります。また、2024年1月以降、PDF領収書やメールで受け取った請求書など電子データで授受した書類は、電子データのまま保存することが義務です(紙に印刷しての保存は原則認められません)。ファイル名に「日付・取引先・金額」を含める(例:20260528_株式会社○○_11000)か、検索機能付きのシステムで管理してください。
コラム著者・編集者
TEMPLEX編集チーム
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