契約書の確認ポイント|署名・押印前にチェックすべき項目と危険な条文

契約書の確認ポイント|署名・押印前にチェックすべき項目と危険な条文

署名する前に「自社が不利な条文」を見抜く

相手から渡された契約書は、当然ながら相手に有利な書き方になっていることが多いものです。とはいえ、すべての条文を疑っていてはきりがありません。実際にトラブルになりやすいのは決まったポイントに集中しています。

署名・押印してしまえば「読んでいなかった」は通りません。以下では、確認すべき項目ごとになぜ重要か・どんな書き方が危険か・どう直してもらうかをセットで説明します。気になる条文が見つかったら、署名前に書面(メールでも可)で修正を依頼してください。

迷ったら署名を急がないのが最大の防御です。「社内で確認します」と一度持ち帰るだけで、不利な条文に気づける時間が生まれます。相手が即日の署名を強く迫ってくる契約ほど、慎重に読む価値があります。

当事者情報|誰と契約しているかを確定させる

契約書の冒頭と末尾の署名欄は、相手の登記情報と一字一句一致しているかを確認します。会社名・代表者名・本店所在地がずれていると、いざ請求や訴訟になったときに「契約の相手が誰なのか」で揉める原因になります。国税庁の登記情報や登記簿で正式名称を照合しておくと安心です。

正式名称・代表者・所在地

危険なのは、屋号・通称・前株後株の取り違えです。「株式会社○○」と「○○株式会社」は別物として扱われますし、代表者が交代しているのに旧代表名のままになっているケースもあります。名刺やウェブサイトの表記ではなく、登記上の名称に合わせてもらいましょう。個人事業主と契約する場合は、屋号だけでなく個人名(戸籍上の氏名)を必ず併記してもらいます。

署名している人に締結権限があるか

意外と見落とされるのが、署名・押印している人に契約を結ぶ権限があるかという点です。代表取締役が署名するのが原則ですが、担当者や支店長が署名する場合は、その人が会社を代表して契約できる立場かを確認します。権限のない人が結んだ契約は、後から「無効だ」と相手会社に主張されるリスクがあります。代理人が署名するなら委任状の有無もチェックしましょう。

委任状の書き方や、誰の押印が必要かといった締結権限まわりは別記事で詳しく解説しています。代理人を立てる・立てられる場合はこちらを参照してください。

契約内容|「何を・いくらで・いつまで」を曖昧にしない

トラブルの大半は「言った・言わない」から生まれます。業務範囲と対価と期間を具体的な言葉で固めることが、契約書を結ぶ最大の目的だと考えてください。

業務範囲・納品物(「一式」は要注意)

最も危険な表現が「○○一式」「上記業務に付随する一切の作業」です。範囲が曖昧だと、相手から「これも一式に含まれるはず」と追加作業を無償で求められたり、逆に「やってもらえると思っていた」と期待されていた作業が抜け落ちたりします。納品物・成果物は点数や仕様を明記し、含まれない作業(追加料金が発生する範囲)も書き分けてもらうのが理想です。

対価・報酬と支払条件

金額そのものより支払時期・支払方法・税込か税抜かで揉めることが多いです。「月末締め翌月末払い」なのか「検収後30日以内」なのか、振込手数料はどちらが負担するのか、消費税の扱いはどうかまで確認します。報酬額が「別途協議」のまま空欄になっている契約は、後で価格交渉が難航しやすいので、可能な限り署名前に金額を確定させましょう。

支払が遅れたときの遅延損害金の利率も見ておきます。法定利率(現在は年3%)に対して、その利率が不当に高く設定されていないかという視点です。事業者間(企業同士)の契約では遅延損害金の利率に法律上の上限はなく、年14.6%は一種の慣習として広く使われる標準的な水準なので、これ自体が直ちに不当というわけではありません。一方、相手が一般消費者(個人)になる契約では、消費者契約法により年14.6%が上限と定められ、これを超える部分は無効です。自社が支払う側のときは、法定利率からかけ離れた高率になっていないかを目安に確認しましょう。

契約期間と自動更新条項

継続的な取引では自動更新条項の「更新拒否の通知期限」を必ず確認してください。「期間満了の3か月前までに書面で申し出なければ自動的に1年更新される」といった条項が入っていると、解約のタイミングを逃して望まない契約が続いてしまいます。通知期限が何日前か、書面が必要か、メールでよいかまで読み込みましょう。やめたいときにすぐやめられるか、という視点が重要です。

秘密保持条項

秘密保持(NDA相当)の条項では、秘密情報の範囲が広すぎないか・義務の期間が長すぎないかを見ます。「本契約に関連して知り得た一切の情報」と書かれていると、何が秘密情報なのか曖昧で、自社が義務違反を問われるリスクが上がります。秘密情報の定義(書面で秘密と明示されたものに限る等)と、契約終了後の存続期間(2〜5年が一般的)を確認しましょう。

リスク管理|万一のときに無制限の責任を負わないか

ここが法務の専門家が最も時間をかけて読む部分です。うまくいかなかったとき・揉めたときに、自社がどれだけの責任を負うのかを決める条項が並びます。

損害賠償の上限(最重要)

署名前に必ず探すべきなのが損害賠償条項です。上限の定めがないと、契約金額をはるかに超える無制限の賠償リスクを負うことになります。数万円の業務を受けたのに、相手の損害が数百万円に膨らんだら全額請求される、という事態が起こり得ます。「損害賠償額は本契約の対価(委託料)の総額を上限とする」といった上限条項を入れてもらうのが、受注側の自衛の基本です。

あわせて賠償の対象範囲(間接損害・逸失利益を含むか)も確認します。「直接かつ通常の損害に限る」と限定されていれば、機会損失や二次的な損害まで負わずに済みます。逆に「一切の損害」と広く書かれている場合は、限定するよう交渉する余地があります。

契約解除の条件

解除条項は、どちらか一方だけが有利に解除できる片務的な内容になっていないかを見ます。相手は「いつでも無催告で解除できる」のに、自社からは解除しにくい、という非対称な書き方は珍しくありません。解除事由(債務不履行・支払遅延・信用不安など)が双方に公平か、催告(是正を求める通知)が必要かを確認しましょう。

中途解約とその精算

期間の途中で抜けられるかも重要です。中途解約の規定がある場合は、違約金やペナルティ、既に行った作業分の精算方法を確認します。「残期間の料金を全額支払う」といった重い違約金が設定されていないか、解約通知から何か月で終了できるかをチェックしてください。

不可抗力

天災・大規模な感染症・物流の途絶など、自社の責任ではない事情で履行できなかったときに免責されるかを定めるのが不可抗力条項です。これがないと、納期遅延などが自社の債務不履行とされ、賠償を求められる余地が残ります。免責される事由が具体的に列挙されているか確認しましょう。

知的財産権の帰属

制作物・成果物を納める契約では、著作権など知的財産権がいつ・誰に移るかを確認します。「成果物の著作権は対価の支払完了をもって発注者に移転する」のように、対価を受け取ってから権利を渡す建て付けが受注側には安全です。著作者人格権の不行使条項が入っているか、自社が既に持つ汎用的なノウハウ(ライブラリ等)まで相手に渡らないかも見ておきましょう。

競業避止義務

「契約期間中および終了後○年間、同種の業務を競合他社に提供しない」といった競業避止義務が入っている場合は、禁止される範囲・地域・期間が広すぎないかを確認します。フリーランスや専門業者にとっては、これが今後の仕事を縛る足かせになりかねません。範囲が不当に広いと感じたら、対象業務を限定する・期間を短くするよう交渉しましょう。

反社会的勢力の排除条項(暴排条項)

企業間取引では、反社会的勢力の排除条項(暴排条項)が入っているかを確認します。お互いが「自分は暴力団などの反社会的勢力ではない」と表明・保証し、もし相手が反社会的勢力だと判明したら無催告で契約を解除し損害賠償を請求できる、という建て付けの条項です。全国すべての都道府県で暴力団排除条例が施行されており、暴排条項のない契約は自社のコンプライアンス体制を疑われ、金融機関との取引などに支障が出るおそれもあります。

確認の要点は、双方が表明保証する形になっているか・違反時に解除権が定められているかの2点です。条項が見当たらない場合は、相手に追加を求めるのが無難です。自社で契約書を用意する側であれば、最初から盛り込んでおきましょう。

「準拠法・合意管轄」も地味ながら効いてきます。紛争時にどの裁判所で争うかを定める条項で、相手の本社所在地の裁判所が指定されていると、遠方まで出向く負担が生じます。自社から遠い地が指定されていないか確認しておくと安心です。あわせて、その裁判所のみで争う専属的合意管轄か、法律上の裁判所に加えてその裁判所でも争える付加的合意管轄かも見ておきましょう。「専属的」と明記された条項は、自社が他の裁判所に訴えを起こすこともできなくなる点で影響が大きくなります。

形式面|収入印紙・契印・部数・押印の最終チェック

中身に問題がなければ、最後に体裁を確認します。収入印紙の貼り忘れは過怠税のペナルティにつながるため、特に注意が必要です。

収入印紙が必要な契約かどうか

紙で契約書を作る場合、その契約書が印紙税法上の「課税文書」に当たるかを確認します。代表的なのは、工事や物の製作などの請負契約書(第2号文書)と、継続的な取引の基本条件を定める基本契約書(第7号文書)です。請負契約書は契約金額に応じて印紙税額が変わり、基本契約書は一律で決まっています。

文書の種類代表例印紙税額の決まり方
第2号文書(請負)工事請負契約、物品製作の請負契約金額により変動(記載なしは200円)
第7号文書(継続的取引の基本契約書)売買・運送・業務委託などの基本契約1通あたり一律4,000円
出典:国税庁タックスアンサー No.7102・No.7104

請負契約書(第2号文書)の印紙税額は、契約書に書かれた契約金額で次のように決まります。契約金額が1万円未満なら非課税です。

契約金額印紙税額(本則)
1万円未満非課税
1万円以上 100万円以下200円
100万円超 200万円以下400円
200万円超 300万円以下1,000円
300万円超 500万円以下2,000円
500万円超 1,000万円以下1万円
1,000万円超 5,000万円以下2万円
金額の記載がないもの200円
請負契約書(第2号文書)の印紙税額。出典:国税庁タックスアンサー No.7102

なお、建設工事の請負契約書には軽減措置があり、令和9年3月31日までは税額が引き下げられています(契約金額100万円超が対象)。たとえば「300万円超〜500万円以下」は本則2,000円のところ1,000円、「500万円超〜1,000万円以下」は本則1万円のところ5,000円です。建設工事の契約書を扱う場合は、軽減後の金額で印紙を用意します。

業務委託契約は「請負か委任か」で課税が分かれる

判断に迷いやすいのが業務委託契約です。仕事の完成を約束する内容なら「請負」として課税、事務の処理を任せる内容なら「(準)委任」で原則は不課税になります。たとえば「成果物を完成して納品する」契約は請負(第2号文書)、「一定の業務を継続して処理する」契約は委任に近く課税されないことが多い、という整理です。ただし継続的な業務委託の基本契約は第7号文書として4,000円課税されることがあり、判断は内容次第なので、迷う場合は税務署や専門家に確認しましょう。

電子契約(電子データだけで締結し、紙に印刷しない)なら収入印紙は不要です。印紙税法上、電磁的記録は「文書」に含まれず課税文書に当たらないため、というのが国の見解です(2005年の国会答弁等で確認されています)。印紙代を節約したい場合は、電子契約の利用を相手に提案するのも一つの方法です。

契印・割印・部数・押印

最後に物理的な体裁です。契約書は2部作成し、双方が原本を1部ずつ保管するのが基本です。複数ページにわたる場合は、ページの差し替えを防ぐためにページのつなぎ目へ契印(または袋とじ+製本テープに契印)を押します。2部の整合性を示すために、2部にまたがって押すのが割印です。契印と割印は役割が違うので混同しないようにしましょう。署名・記名押印の欄に漏れがないか、印影がかすれていないかも最終確認します。

コピペで使える契約書チェックリスト

署名・押印の直前に、上から順に確認してください。一つでも「?」が残る項目があれば、署名を保留して相手に確認するのが安全です。

契約書チェックリスト(コピペ用)
【当事者情報】 □ 会社名・代表者名・所在地が登記と一致している □ 前株・後株、屋号・個人名の取り違えがない □ 署名者に締結権限がある(代理人なら委任状あり) 【契約内容】 □ 業務範囲・納品物が具体的(「一式」で済ませていない) □ 対価・支払時期・支払方法・税込税抜が明確 □ 報酬額が「別途協議」のまま空欄になっていない □ 契約期間が明記されている □ 自動更新条項の更新拒否・通知期限を確認した □ 秘密保持の範囲と存続期間が過大でない 【リスク管理】 □ 損害賠償に上限がある(無制限になっていない) □ 賠償の対象範囲(間接損害・逸失利益)を確認した □ 解除条件が双方公平(片務的でない) □ 中途解約の可否と違約金・精算を確認した □ 不可抗力による免責の定めがある □ 知的財産権の帰属(移転時期)が明確 □ 競業避止義務の範囲・期間が過大でない □ 反社会的勢力の排除条項(暴排条項)があるか □ 遅延損害金の利率が法定利率に比べ不当に高くない □ 合意管轄(裁判所)が極端に不利でない・専属か付加かを確認した 【形式・印紙】 □ 収入印紙の要否を確認した(課税文書か) □ 請負契約は契約金額に応じた税額か □ 2部作成し1部ずつ保管する □ 契印・割印・ページ番号で改ざん防止 □ 署名・記名押印の欄に漏れがない

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コラム著者・編集者

TEMPLEX編集チーム

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