退職誓約書の書き方|秘密保持・競業避止・貸与品返却の例文と拒否する場合の対応

退職誓約書の書き方|秘密保持・競業避止・貸与品返却の例文と拒否する場合の対応

退職誓約書とは|入社誓約書との違い

退職誓約書は、従業員が会社を退職するにあたり、「退職後も守るべき義務」を書面で約束する片務的な文書です。秘密保持・競業避止・貸与品の返却・個人情報の取扱いなどが典型的な誓約事項で、退職者本人が署名・押印して会社に提出します。

入社誓約書が「これから在職中に守ること」を約束するのに対し、退職誓約書は「退職後も継続して守ること」を約束する点が最大の違いです。退職後は雇用関係が消滅するため、在職中の就業規則だけでは退職者を拘束できません。そこで退職誓約書によって、退職後も一定期間の秘密保持義務や競業避止義務を明示的に合意する、という実務上の役割があります。

比較項目入社誓約書退職誓約書
提出時期入社時(内定承諾後)退職時(最終出社日前後)
主な誓約内容就業規則遵守・秘密保持・兼業禁止秘密保持・競業避止・貸与品返却・データ削除
義務の期間在職中(退職で終了)退職後も一定期間(2〜5年が一般的)
拒否の余地採用条件の一部として提出が前提法的には強制不可(合理的範囲なら応じるのが一般的)
入社誓約書と退職誓約書の比較

入社誓約書の書き方・テンプレートは『入社誓約書の書き方』、誓約書全般の基本構成は『誓約書の書き方ガイド』をご参照ください。

退職誓約書に盛り込む典型的な誓約事項

退職誓約書に何を書くかは会社によって異なりますが、実務上よく盛り込まれる事項は6つに集約されます。以下のチェックリストを使えば、自社のフォーマットに抜け漏れがないか確認できます。

誓約事項内容備考
1. 秘密保持在職中に知り得た営業・技術・人事・顧客情報の漏洩禁止退職後3〜5年が一般的。不正競争防止法上の営業秘密に該当すれば期間制限なし
2. 競業避止退職後の一定期間、競合他社への就業・競合事業の開業を制限合理性が認められないと無効になるリスクあり(後述)
3. 貸与品の返却PC・社用端末・社員証・カードキー・業務資料等の返還私的端末内の業務データ削除も含める
4. 個人情報の取扱い業務上知り得た個人情報の退職後の使用・開示禁止個人情報保護法との整合を明示すると効果的
5. 引き継ぎの完了後任者への誠実な引き継ぎと完了の確認引き継ぎ書の作成義務を含めることも
6. SNS等での誹謗中傷禁止退職後に会社・役員・従業員を誹謗中傷する投稿を行わない正当な口コミ・内部通報まで制限すると公序良俗違反のおそれ
退職誓約書の典型的な誓約事項チェックリスト
退職誓約書の典型的な誓約事項の例
退職誓約書の典型的な誓約事項の例

上記に加え、「違反時の損害賠償義務」を末尾に置くのが一般的です。ただし、損害賠償条項は「実損相当額」を超える過大な金額を定めると、公序良俗違反で無効となる可能性がある点に注意してください。

退職誓約書の全文例(コピペ用フォーマット)

以下は、秘密保持・競業避止・貸与品返却・個人情報・引き継ぎ・違反時の効果を網羅した汎用フォーマットです。○○部分を自社の情報に書き換えて使用してください。競業避止条項の「○○事業」「○○地域」は具体的な事業名・地域名に置き換えないと合理性が認められにくくなります。

退職誓約書 全文フォーマット
退職誓約書 ○○株式会社 御中 私 ○○ ○○ は、貴社を退職するにあたり、下記事項を遵守することを誓約いたします。 1. 秘密保持 私が貴社在職中に知り得た下記の情報を「秘密情報」とし、退職後も第三者に開示・漏洩しないこと。 (1)営業情報: 顧客リスト・販売価格・取引条件・営業戦略 (2)技術情報: ソースコード・設計書・製造ノウハウ・特許出願前情報 (3)人事情報: 従業員の個人情報・人事考課・給与 (4)その他、貴社が秘密として指定した情報 ただし、次の情報は除外する。 (ア)公知の情報 (イ)独自に取得した情報 (ウ)正当な権利を有する第三者から守秘義務なく取得した情報 2. 競業避止 退職後2年間、貴社の○○事業と直接競合する事業に対し、○○地域において従事しないこと。 3. 貸与品の返却 退職時に貴社から貸与・配布された資料・データ・端末・社員証・カードキーを返却し、私的端末に保存した秘密情報を完全に削除すること。 4. 個人情報 業務上知り得た個人情報を、退職後も業務目的以外に使用せず、第三者に開示しないこと。 5. 引き継ぎ 後任者への業務引き継ぎを誠実に行い、引き継ぎ完了をもって退職手続を完了すること。 6. 違反時の効果 上記事項に違反した場合、貴社が被った損害の賠償責任を負うほか、貴社の差止請求等の権利を妨げないこと。 2026年5月25日 住所: 東京都○○区○○ 1-2-3 氏名: ○○ ○○(印)

競業避止条項の「○○事業」「○○地域」を具体化せずに「類似する一切の業務」のような包括的表現にすると、裁判所で無効と判断されるリスクが高まります。後述の「合理性チェック」を必ず確認してください。

秘密保持条項の書き方

秘密保持条項は退職誓約書の核心部分です。「何が秘密情報にあたるのか」を具体的に定義しないと、退職者にとっても会社にとっても解釈が曖昧になり、いざ漏洩が起きたときに争いになります。

秘密情報の4分類

秘密情報は一般に次の4カテゴリに分けて列挙します。すべてを「秘密情報」と一括りにせず、カテゴリごとに具体例を挙げるのが実務上のポイントです。

  1. 営業情報: 顧客リスト、販売価格、取引条件、営業戦略、マーケティング施策
  2. 技術情報: ソースコード、設計書、製造ノウハウ、特許出願前の発明情報、アルゴリズム
  3. 人事情報: 従業員の個人情報、人事評価、給与体系、採用計画
  4. 顧客情報: 顧客の個人データ、契約内容、取引履歴、クレーム対応記録

例外規定(除外事由)を設ける理由

秘密保持条項には必ず除外事由を設けます。除外事由がないと「すでに公になっている情報まで話せない」という過度な制限になり、条項全体の合理性が疑われる原因になります。典型的な除外事由は3つです。

  • 公知の情報(開示時点ですでに公開されている、または退職者の責めによらず公知となった情報)
  • 退職者が独自に取得した情報(在職前から知っていた情報を含む)
  • 正当な権利を有する第三者から、守秘義務を課されることなく取得した情報

有効期間の目安

秘密保持義務の期間は、一般的には退職後3〜5年が設定されます。技術情報のライフサイクルが短い業界(IT・Web)では2〜3年、医薬品や製造業など技術情報の寿命が長い業界では5年以上を設定することもあります。ただし、不正競争防止法上の「営業秘密」に該当する情報は、期間にかかわらず法律で保護されます。

不正競争防止法との関係|営業秘密の3要件

退職誓約書がなくても、会社の情報が不正競争防止法上の「営業秘密」に該当すれば、退職者による不正な使用・開示は差止め・損害賠償の対象になります。営業秘密として認められるには、秘密管理性・有用性・非公知性の3要件をすべて満たす必要があります。

要件内容実務上のポイント
秘密管理性秘密として管理されていること「マル秘」表示、アクセス制限、秘密保持契約の締結など
有用性事業活動に有用な情報であること技術的・営業的に価値がある情報(ネガティブ情報も含む)
非公知性公然と知られていないことインターネットや業界誌で容易に入手できない情報
不正競争防止法 営業秘密の3要件

退職誓約書で秘密保持義務を明示しておくことは、会社側にとって「秘密管理性」の立証を補強する材料にもなります。誓約書がない場合でも不正競争防止法で保護される可能性はありますが、3要件の立証がより困難になるため、退職時に改めて書面化しておく意義は大きいといえます。

秘密保持誓約書のより詳しい書き方・条項設計は『秘密保持誓約書の書き方』で解説しています。

競業避止条項の合理性チェック

競業避止条項は、退職誓約書のなかで最もトラブルになりやすい条項です。職業選択の自由(憲法22条)を制限する性質があるため、裁判所は条項の合理性を厳格に審査します。

大前提|そもそも競業避止を求められるケースか

判例(フォセコ・ジャパン・リミテッド事件等)では、競業避止条項の有効性を判断する前提として、次の2点がまず問われます。

  • 会社側に守るべき正当な利益があるか:独自の営業秘密、特殊な技術ノウハウ、重要な顧客情報など、競業によって毀損されうる具体的な利益が存在すること。
  • 退職者が制限されるべき地位にあったか:営業秘密やノウハウに実際にアクセスできた立場(役員・管理職・研究開発職・主要取引先担当など)であること。一般的な事務職や現場作業員にまで広く競業避止を課すのは認められにくい。

この2点の前提を満たしたうえで、裁判所は条項の内容(制限の範囲・期間・代償措置)が合理的かを具体的に審査します。

条項の内容で問われる4要素

要素合理性あり(有効寄り)合理性なし(無効寄り)
1. 対象業務の範囲「○○事業と直接競合する事業」のように具体的に限定「類似する業務」「同業他社」のような包括的表現
2. 制限期間1〜2年(業界により最大3年)5年以上、または期間の定めなし
3. 地域的範囲「関東圏」「○○県内」のように限定日本全国・海外を含む、または地域限定なし
4. 代償措置退職金の上乗せ、競業避止手当の支給代償措置がまったくない
競業避止条項の合理性を判断する4要素

前提の2点+4要素のすべてが揃わなければ即座に無効になるわけではありませんが、「守るべき正当な利益が不明確」「対象業務が無限定」「代償措置なし」の組み合わせは、無効と判断される可能性が最も高いパターンです。

NG例とOK例の対比

競業避止条項 NG例とOK例
NG: 「貴社と類似する業務に5年間従事しない」 → 期間が5年と長い、対象業務が「類似する業務」で無限定、地域限定なし、代償措置なし OK: 「貴社の○○事業(具体名)と直接競合する事業に対し、退職後2年間、関東圏において従事しない」 → 対象業務を具体化、期間2年、地域を関東圏に限定

会社側としては、競業避止を求める代わりに退職金の上乗せや競業避止手当を支給すると、合理性が認められやすくなります。退職者側としては、NG例のような包括的条項に署名を求められた場合、後述の「拒否・修正交渉」のセクションを参考にしてください。

貸与品返却・データ削除の条項

貸与品の返却とデータ削除は、情報漏洩を防ぐ実務上の要です。退職誓約書に返却対象を具体的にリストアップしておくことで、最終出社日のチェックがスムーズになります。

返却物チェックリスト
□ ノートPC・タブレット □ 社用携帯電話 □ 社員証・入館カード・カードキー □ 名刺(自分の名刺+受領した取引先の名刺) □ 業務資料・設計書・マニュアル(紙・電子) □ USBメモリ・外付けHDD □ 制服・作業着 □ 私的端末内の業務データ → 削除確認 □ 私的クラウドストレージ内の業務データ → 削除確認

見落としがちな「私的端末内のデータ」

BYOD(私物端末の業務利用)や在宅勤務が広がった現在、退職者の私的スマートフォンやPCに業務データが残っているケースは珍しくありません。退職誓約書には、「私的端末・私的クラウドストレージに保存した秘密情報を完全に削除する」旨を明記しておくことを推奨します。削除確認の方法(スクリーンショットの提出、IT部門の立ち会いなど)まで定めておくと、後日のトラブルを防ぎやすくなります。

返却時期のポイント

返却は原則として最終出社日に行います。有給消化期間に入る前に貸与品を返却してもらう運用が一般的です。ただし、退職日まで有給消化で出社しない場合は、郵送返却のルール(着払い可否・送付先・期限)をあらかじめ決めておくとスムーズです。

提出を拒否された場合の対応

退職誓約書は合意に基づく書面であるため、法的に署名を強制することはできません。退職者から「署名したくない」と言われた場合、会社側はどう対応すべきでしょうか。

会社側の対応|拒否されたときの落としどころ

拒否の原因は、多くの場合「競業避止の範囲が広すぎる」「損害賠償の条項が不安」といった特定の条項への懸念です。全面拒否を押し切ろうとするより、問題のある条項を修正して合意を取り付けるほうが、会社にとっても得策です。過度な条項を含んだ誓約書は、裁判になったとき条項全体が無効と判断されるリスクがあるためです。

  1. 拒否の理由を聞く: どの条項に問題を感じているのか具体的に確認する
  2. 条項を修正して再提示する: 競業避止の期間短縮・対象業務の限定・代償措置の追加など、合理的な範囲に修正する
  3. 秘密保持・貸与品返却だけでも取り付ける: 競業避止に合意が得られなくても、秘密保持と貸与品返却の誓約は別途取得する。これらは退職後のリスク管理上とくに重要

なお、署名を拒否したことを理由に退職金を不支給にする、あるいは退職手続を妨害する行為は不当な対応にあたる可能性があります。退職金の支給要件は就業規則で定められた条件(勤続年数・退職事由など)に基づくものであり、誓約書への署名は通常その条件に含まれません。

退職者向け|署名を求められて困っている場合

退職にあたって誓約書への署名を求められた場合、秘密保持や貸与品返却など合理的な内容であれば応じるのが実務的です。問題がある条項だけに絞って対応すれば足ります。

  1. 内容の修正を交渉する: 競業避止の期間が長すぎる、対象業務が広すぎるなど、具体的な問題点を指摘して修正を求める
  2. 問題のない条項だけ署名する: 秘密保持・貸与品返却は応じるが、競業避止だけは署名しない、という「部分署名」を提案する
  3. 弁護士に相談する: 条項が明らかに過度で交渉にも応じてもらえない場合は、労働問題に詳しい弁護士に相談する

NG条項チェック|この条項が入っていたら要注意

退職誓約書に以下のような条項が含まれている場合、署名前に内容の妥当性を慎重に検討する必要があります。会社側がフォーマットを作成する立場であれば、これらの条項は避けるべきです。

NG条項問題点改善案
「類似する一切の業務に従事しない」対象業務が無限定で職業選択の自由を過度に制限「○○事業(具体名)と直接競合する事業」に限定する
「期間の定めなく秘密を保持する」永久の義務は非現実的。不正競争防止法の保護がある場合を除き過剰「退職後○年間」と期限を明示する
「違反した場合、損害額にかかわらず金○○万円を支払う」労基法16条は違約金の定めや損害賠償額の予定を禁止している「実損相当額を賠償する」に変更し、具体的な金額の予定を置かない
「公知の情報を含むすべての情報」を秘密情報と定義公知情報まで秘密にする義務は不合理公知情報・独自取得情報・第三者から非秘密で取得した情報を除外する
「在職中の発明・著作物の権利を退職後も放棄する」職務発明規定(特許法35条)や著作権法との整合性に問題が生じうる就業規則・職務発明規定に基づく権利帰属を確認のうえ記載する
退職誓約書のNG条項と改善案

退職者の立場からは、上記の条項が含まれていたら「そのまま署名しない」のが鉄則です。会社側の立場からは、NG条項が含まれた誓約書は、いざ裁判になったとき条項全体が無効と判断されるリスクがあるため、かえって会社を守れません。フォーマットの段階で合理性を確保しておくことが重要です。

電子化と保管|取得のタイミングと管理方法

退職誓約書の電子化は、クラウドサインやDocuSignなどの電子契約サービスで対応可能です。電子署名法に基づく電子署名が付与されていれば、紙の署名・押印と同等の法的効力が認められます。

取得タイミングの実務フロー

退職誓約書の取得タイミングは、退職手続全体の流れのなかで組み立てます。最終出社日に署名・押印してもらうのが最も確実です。有給消化に入ってから郵送で依頼すると、返送されないリスクが高まります。

  1. 退職届を受理(退職日の確定)
  2. 引き継ぎ期間中に退職誓約書のドラフトを共有し、内容を確認してもらう
  3. 最終出社日に署名・押印を取得(電子署名の場合もこの日までに完了)
  4. 貸与品の返却を同時に実施(チェックリストで確認)
  5. 有給消化期間に入る → 退職日

有給消化に入ると退職者と連絡が取れなくなるケースが少なくありません。郵送で誓約書を送っても返送されないリスクがあるため、必ず最終出社日までに回収を完了するフローを構築してください。引き継ぎの進捗確認と誓約書の取得をセットで管理するのが確実です。

保管期間と方法

退職誓約書には法定の保管期間の定めはありませんが、秘密保持義務や競業避止義務の有効期間中は保管し、有効期間満了後も一定期間(2〜3年)保管しておくのが安全です。退職者が競業避止義務に違反した場合に、誓約書が唯一の証拠になることも少なくありません。紙の原本はスキャンしてPDF化し、人事ファイルに紐付けて保管します。

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コラム著者・編集者

TEMPLEX編集チーム

TEMPLEX編集チームは、ビジネス文書の作成・管理に精通した実務経験者と技術ライターで構成されています。送付状・請求書・見積書をはじめとする各種ビジネス書類のフォーマットや書き方のノウハウを、わかりやすく丁寧にお届けします。「Office不要で誰でもすぐ使える」をコンセプトに、忙しいビジネスパーソンの書類作成をサポートします。

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